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2008.06.14

非・バランス

20080610_013 日常。その均衡を保つのは、決して容易なことではない。どうかすると待ちかまえていたように、危うい揺れがわたしたちを襲うのだ。明日は見えない。数時間先のことも、数分先のこともわからない。だからこそ日々は恐ろしさに満ちていて、同時に心躍らせるほどに楽しさを秘めているものなのだろう。魚住直子著『非・バランス』(講談社文庫)は、そんなわたしたちの日々を切り取ったような、危うさの中に生きる思春期の少女の物語である。クールに生きていく。友だちはつくらない。小学生時代の執拗ないじめから、そう学校での自分の立ち位置を決めた少女。自ら孤立を選んだ少女が、ある一人の女性と出会ったことで、少しずつその心がほどけてゆくのが印象的だ。

 思えば、主人公の少女のように、わたしも小学生時代の過去を振り払うように中学生活を送った者の一人だ。けれど、いつまでも疼く傷は些細なことでぶり返しては、じくじくと痛んでばかりいた。毎夜のように見る悪夢は、昼間でさえもわたしを怯えさせるに充分で、同じ失敗を繰り返すのではないかと、いつだってびくびくしていた。一言一句に神経質になってゆくわたしが、日に日に無口になっていったことは言うまでもない。物語の主人公のようにクールにもなりきれず、中途半端なわたしには、本当の意味での信頼できる人も周囲にはいなかったような気がする。むろん、両親は働いていて忙しかったし、自分の悩みを打ち明けられるほどの時間や心のゆとりなんて、ゼロに近かった。

 もちろん、主人公の少女だって、クールに生きると誓いながらも、完璧にクールではいられない。ときに万引きをしたり、ときに悪戯電話をかけたり。主人公なりのもがき足掻く姿は、とても他人事とは思えずに、わたしの疼きとシンクロしてゆくようだった。少女はそんなときに、学校で噂になっている、願いを叶えてくれるという“ミドリノオバサン”と見間違えた、一人の女性・サラさんに思わず「タスケテ」と言い、そこから二人の関係がはじまってゆく。だが、理想の大人だと思えていた彼女もまた、危うさの中に生きる者の一人だったのである。痛みを知る人が傍に寄り添ってくれるということほど、心強いものはない。そして、本当の意味で心を許せる人と出会えることほどの奇跡も。

406275391X非・バランス (講談社文庫)
魚住 直子
講談社 2006-05-16

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コメント

小さい頃受けたトラウマって今でも覚えてて
いつまでも払拭されない。
けれど、このトラウマが今の自分が在ることの
証明のように思えてなりません

痛みを理解してくれる人が居ることは、すばらしいことです
僕には危うさの日日に危うき関係ばかり
でもこれが絶妙な均衡を保っているのかもしれない

投稿: Pepe | 2008.06.15 18:00

Pepeさん、コメントありがとうございます。
そうですね。きっと、すべての過去は今に繋がっているのでしょうね。
今のPepeさんがこうして在るのも。
わたしがこうして在るのも。
きっと偶然じゃなくて必然なのだと信じたいです。
そうして日々の危うさもまた、わたしたちになくてはならないものだと。
浮き沈みもまた、人間らしい営みのある種のカタチなのだと。

投稿: ましろ(Pepeさんへ) | 2008.06.15 20:37

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