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2008.06.02

でんでんむしのかなしみ―いのちのかなしみ・詩童話集

20070524_015 悲しみひとつ。悲しみふたつ。そうやって積み重なってゆく悲しみを前に、くずおれることしばしば。自分ばかりが悲しいと、嘆き、暮れる。確かに“かなしみ”とは、自分の力ではとても及ばないと感じるせつなさを云うけれど、それでもおのれの思いに逆らうように渦巻くこの感情の行き場は、どこかにないだろうかと、考えて込んでしまうわたしだ。やがて果てる命の悲しみについてうたった童話や詩を集めた、北川幸比呂・大倉雅恵編『でんでんむしのかなしみ―いのちのかなしみ・詩童話集』(日本短波放送)は、悲しくも心豊かになる、新美南吉、小川未明、宮沢賢治、安房直子、鬼塚りつ子ら、現代作家や新人まで18名の作品が収録されている。

 タイトルにもなっている新美南吉の「でんでんむしのかなしみ」。ふと自分ばかりが悲しいと気づいた一匹のでんでんむしが、友だちのでんでんむしによって、実は誰もが悲しみを背負っているのだと知る物語である。いつか果てる命があるかぎり、わたしはわたしの悲しみに耐えて生きねばならない。どうかすると悲しみに押し潰されそうになる心に、ずしんと響いてくる言葉たちである。また、有名な「ごん狐」では、あまりにもあっけなく散る命にはっとせずにはいられない。ごんの思いと兵十の思いとのすれ違いがもたらした悲劇は、ある意味わたしたちの身近に起こる悲しい出来事にも通ずるようにも感じられる。命の重みというもの、命の儚さというもの。さまざまなことを思わせる物語だ。

 他に収録されている、安房直子の「きつねの窓」は、青い桔梗の花畑に迷い込んだ若い猟師が、染物屋の少年に化けた子狐と出会う物語だ。そして、子狐は青色に染めた指で菱形の窓をつくって見せてくれる。そこには懐かしい人の姿が現れ、子狐はそうしていつも死んだ母親と会っているのだと云う。半信半疑のまま若者が染められた指で窓をつくると、その中には昔好きだった少女の姿が見えたのだった。けれどその後、読み手は瞬く間に現実に引き戻される。戦争を思わせる若者の過去と、心に深く根をはる悲しみに。大人になってから読む童話は、ただ夢見心地に浸るわけにはいかず、子狐が可愛いと無邪気にも喜べず。けれど、その中にあるおかしみはすくいたいと、祈るように思うのだった。

4931367518でんでんむしのかなしみ―いのちのかなしみ・詩童話集
北川 幸比古 大倉 雅恵
日本短波放送 1999-05

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コメント

童話好いですよね。
優しい気持ちになれるし、
忘れていたことを思い出させてくれる

大切な事を伝えるのに
難しい言葉を使った論説なんて
いらないんです
ただ、純粋に・・純粋に

それにしても
ここで面白そうな本を見かける度、
本屋に行きたい!行きたい!
となるPepeでございました

投稿: Pepe | 2008.06.02 20:00

Pepeさん、コメントありがとうございます。
そうなんです!
大切なことを伝えるのに、難解な言葉はいらない。
そして、純粋に物語を楽しむことができたなら、
それでいいと思うのです。

でも、ついつい大人読みをしてしまうわたしでございます。
大人だからこそわかる“おかしみ”を掬いとることができたなら、
いいのですけれど…。
なかなか難しいものですね。
童話の世界は奥が深いです。

そしてこのブログが、本選びの参考になれば、
それほど嬉しいことはありませぬ。
今後も是非ご贔屓に!
よろしくお願いいたします。

投稿: ましろ(Pepeさんへ) | 2008.06.02 21:22

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