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2008.06.17

大人にしてあげた小さなお話

20080610_010 どきりとするような、はっとさせられるような、毒のある物語がたまらなく好きだ。もちろん、毒と言っても、誰かを攻撃するような間違った毒じゃない。愛とユーモアに満ちた、とびきり色気のある毒でなくちゃ。岸田今日子著『大人にしてあげた小さなお話』(大和書房)は、そんな艶めきを放つ一冊である。収められた二十一のショートショートや名作童話のパロディの鮮やかな彩り、その人間の内に秘められた闇の部分にはっとしては、はじまりからおしまいまで終始どきどきするのだった。もっと早くに出会えていたら…と悔やむことしきり。なお、収録作品は『ラストシーン』『時の記憶』『ひとみしりな入江』より再録、訂正加筆したものである。

 はじめに収録されている「あしおと」。別れを切り出す男に、“せめて足音だけでも置いて行ってね”と言う女。男の仕打ちに対する、女のひそやかな企みが徐々に明らかになってゆく。復讐にしてはささやかな、けれど、じんわりと残る不気味さ。この読後感がたまらない。前半部分の締めくくりである「いつもの夏」では、女の企みは声をかけてきた少年にそそがれる。少年の下心と、女の計画。じっくりと。確実に。本物の言葉が放たれるまで、ひと夏をかけて女は待ち続けるのである。ああ女とは、こんなにも強い生き物なのだな。そう今さらながら思うのは、物語に登場する女たちが“待つ”ということを知っているからのように思う。せっかちに生きがちな自分を、ただただ恥じ入るわたし。

 後半部分の名作童話のパロディの中では、ペローの“シンデレラ”やグリムの“灰かぶり娘”を近親相姦物語として解釈した「セニスィエンタの家」や、母親から聞かされたお話に疑問を投げかける<わたし>が、隠されていた真実を知ることになる「七匹目の子山羊」が印象的だ。ペロー以上にグロテスクな部分もあり、前半以上に不気味さの残る物語たちだが、いつまでも後を引くものばかり。どれもこれも、まさに大人のためのお話であり、とびきりに艶のあるものばかりなのだ。終始どきどき。はっとする。自分の心のうちに秘めた何かを、ほんのりと刺激されたような心地がするのだった。こんな物語ならば、いつまでも浸っていたい。色気のある毒に、すっかりやられたわたしである。

4479670300大人にしてあげた小さなお話
岸田 今日子
大和書房 2000-06

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コメント

色気のある毒っていい言葉。僕は毒吐き人間ですが
本物の毒吐きは、愛がないと毒を吐きません。

名作童話のパロディ・・更にペローやグリム!!
彼ら以上のグロテスクさとは!?
ツボと云うツボをつかれ、またしても真っ白ブログにやられたPepeである。

投稿: Pepe | 2008.06.18 17:59

Pepeさん、コメントありがとうございます。
読吐き人間だなんて(笑)
どうぞこれからも愛と色気のある毒を吐いてくださいませ。

どうもこの本を読んでいると、
著者の朗読の声が聞こえてくるような気がするのです。
恐ろしさもグロテスクさも増してくるような、あの独特の声が。
岸田今日子さんという方は、本当に偉大な方だったのだなと、
今更ながら思うのでした。

投稿: ましろ(Pepeさんへ) | 2008.06.19 11:21

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