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2008.05.24

ひかりのあめ

20070524_028 あなたとわたし。おれとおまえ。かたくかたく、魂の底から結びついていたふたり。けれど、愛し合ってはいけなかったふたり。それでも、そうせずにはいられなかったふたり。まるでふたりという呪縛に囚われたみたいに、いつだって一緒にいた兄・レックスと妹・マリーナ。そんなふたりに悲劇は起こる。突然のレックスの死だ。フランチェスカ・リア・ブロック著、金原瑞人・田中亜希子訳『ひかりのあめ』(主婦の友社)は、レックスの死によって途方に暮れるマリーナが、絶望の日々から抜け出し、やがて友人のウェストと共に死の真相を探ってゆく物語である。薄い靄がかかったようなトーンの中で展開される物語は、ひりつく傷みにとても近しいのにもかかわらず、不思議ととてもあたたかい。

 そのあたたかさは、レックスがマリーナに向けて詩的に語るパートあってのものだろう。自分の殻に閉じこもり、他人を寄せつけなくなったレックスの叫びのような言葉の数々は、ひどく胸に突き刺さってくる。でも、それだけじゃない。それが、たった一人のためだけに書かれた文章だからこそ、その思いの分だけ心を打つものがあるのだろう。一方、マリーナの語りは、レックスとの記憶をひとつひとつたどるように書かれており、レックスのゴーストと過去と今、生と死とをさまようように生きている状況を見事に表現している。そして、もうひとつの三人称の語りよって、読み手であるわたしたちは、この物語の行き先をほのかに照らしてもらうことになるのである。

 物語の端々で引用されたり印象的に用いられたりしている、T・S・エリオットの『荒地』という詩。その詩に触発されて書かれたというこの物語は、死に向かおうとする者、あるいは死に近しくある者に寄り添って描かれている。決して彼を否定したりしない。けれど、強く肯定するわけでもない。クールでありながらもそっと包み込むやさしさに満ちている。だからこそこの物語は、その分リアリティをもって読み手の心に届いてゆく。ときに鮮やかなイメージと共に。ときに生々しいまでの現実と共に。そうして、物語が終着を迎える頃にはすっかりこの物語の独特の世界に侵食されている自分に、はたと気づくのである。ふたりが囚われていた呪縛に、寄り添ってしまっていることに。

4072407739ひかりのあめ
Francesca Lia Block 金原 瑞人 田中 亜希子
主婦の友社 2004-09-01

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