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2008.05.09

ヨハネスブルクへの旅

20070421_004 学ぼうとしなければ知り得ないことが、この世界にはあふれている。もちろん、知りたくても知り得ないこともあふれている。知らなければならない、目を背けてはいけない事柄はたくさんあるのに、ちっぽけなわたしはその多くを知らないまま日々をのらりくらりと生きてしまっているような気がする。ビヴァリー・ナイヴァー作、もりうちすみこ訳、橋本礼奈画『ヨハネスブルクへの旅』(さ・え・ら書房)に描かれるアパルトヘイト体制下の南アフリカの暮らしもまた、そんな学ぼうとしなければ知り得ないことの一つだろう。時が流れてもなお、拭い去ることのできない世界史における悲劇の傷跡は、そこに暮らす人々の中に深く刻まれているに違いない。

 物語の舞台は、アパルトヘイト(人種隔離政策)下の南アフリカ共和国。重い病気にかかった赤ん坊の妹を助けるために、姉のナレディと弟のティロは三百キロも離れたヨハネスブルクへ、住み込みで働く母親を連れに行こうと決意する。それまで黒人居留地の中での生活しか知らずにいた二人は、旅の途中でさまざまな人と出会い、社会に満ちる矛盾や差別をはじめとする問題と直面してゆく。なぜ、両親と離れて暮らさなければならないのか。なぜ、パスを常に持ち歩かなければならない人々がいるのか。なぜ、黒人と白人で乗るバスが違うのか……など尽きることのない疑問。やがてナレディたちは、グレースと知り合い、“自由”を求めてデモを起こした子どもたちの悲劇を知るのである。

 訳者のあとがきには、読者である少女の言葉がこう記されている。“わたしたち子どもだって、この世界でおこっている本当のことを学びたい。どうしてそれを制限するのでしょう? わたしたちが早く知れば知るほど、わたしたちは知性的な強い人間になる。それが、この世界を平和にする方法なのに”と。人として当然のはずの営み、権利。それすらも奪われていた人々の声に耳を傾けること。アパルトヘイトに限らず過去の過ちを知ることで、わたしたちは何かを得ることができる。何かが変わり始める。それはささやかなものかもしれない。けれど、一人が知ることによって「知る」は広がり始めるのだ。そうしていつしか大きな「知る」となり、本当の平和というのがいつか訪れるかも知れない。

4378014777ヨハネスブルクへの旅
ビヴァリー・ナイドゥー もりうち すみこ 橋本 礼奈
さ・え・ら書房 2008-04

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