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2008.05.05

風花

20070421_014 考えるべきことは先送りに。時ばかりを早送りに。そうやって曖昧な状況に安住するわたしがいる。どうしたって日々は過ぎてゆく。そのことに甘えるように。ずっと続いてゆくから。たぶん、この先も。けれど、そのままでいいわけじゃない。そのまま過ぎてゆくはずもないのに、今と向き合うことができない。わたしと向き合うことができない。誰かと向き合うことなどできるはずもない。川上弘美著『風花』(集英社)の主人公・のゆりもまた、そんなふうにして生きる一人だ。夫から離婚をほのめかされてもなお、どうしたらいいのかわからず、考えることから逃げ続ける日々。それでもゆっくりではあるけれど、自分と向き合い、夫と向き合い、その思いを確かにしてゆく様が印象的。

 のゆり、33歳。結婚して7年。夫婦間にあるのは、どこか空虚なざわめきばかりだ。会話らしい会話もなく、危うすぎるすれ違いの生活。そんな時知った夫の浮気。けれど、それを知ったところで言葉の出ない、のゆり。自分とも、夫とも、今置かれている状況とも、なかなか向き合えずにいる。そんな彼女の曖昧な態度は、何となく日々を生きてしまっている現代人を象徴しているようで、読んでいてぎくりとなる。何も考えずに毎日を生きることなどできないけれど、それでも難なく時は流れてしまうから、のほほんとついその流れに身を委ねてしまうわたしたちみたいなのだ。どこまでも他力本願の狡さが見え隠れするあたりに、のゆりという人物の妙なくらいの人間っぽさを感じたわたしだ。

 それでも、のゆりとその夫・卓哉は互いから目を背けずに、少しずつではあるけれど、向き合うようになってゆく。じれったいまでに不器用で、どうかすると振り出しに戻ってしまいそうになる二人の関係性は、現代社会の夫婦というものが、いかに脆く危うい状態にあるのかを考えさせられる。共に暮らしていようとも、近しいようで遠い“夫婦”というものについて、身を以て知らないわたしには、計り知れない部分がたくさんたくさんあるに違いない。けれど、夫婦というものがよくわからないからこそ、主人公・のゆりの思いに寄り添うわたしは、彼女のゆっくりとした人としての成長が、心地よかったのだった。時はめぐり、わたしもめぐる。そうして、彼女の決意を胸にしまう。

4087712079風花
川上 弘美
集英社 2008-04-02

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コメント

こんにちは。銀河☆です。ご無沙汰してます。

関係ないコメントでごめんなさい。
ひとつ教えてください。
私が昨日購入した文庫本は初版のようですが、
日付は2008年6月4日 初版第1刷発行となっています。

これ未来の日付なんですが、こういうものなんでしょうか。
今まで買った本では、こんな事無かったんですが。
先生、教えてください。

投稿: 銀河☆ | 2008.05.07 23:06

銀河☆さん、お久しぶりです。
コメントありがとうございます。

先生(笑)
半月くらい先の奥付の日付は、わたしもよく目にするのですが、
ひと月くらい先の日付っていうのは、初めて知りました。
ど、どうなのでしょう・・・?
な、なぜなのでしょう・・・???

すみません。
お役に立てなくて。

投稿: ましろ(銀河☆さんへ) | 2008.05.08 07:23

そうですか。
とりあえず先の日付けは有りなのですね。
ありがとうございました。

それだけでも、今夜はゆっくり眠れます。(^v^*)ニコッ

投稿: 銀河☆ | 2008.05.10 01:31

いえいえ。
どういたしまして。

投稿: ましろ(銀河☆さんへ) | 2008.05.10 07:45

こんにちは。
のゆりに、じれったさを感じてました。
でもましろさんの記事で、そういえば先送りにしてること、いっぱいあるなぁって痛感しちゃいました。
自分のこと、気づいてなかったです(恥)。
のゆりのゆるやかな成長が心地よい結末でした。

トラックバックさせていただきました。
最近、いろんなとこでトラックバック反映されなくて、
こちらでは確認できて、安心しました。

投稿: 藍色 | 2008.05.12 11:28

藍色さん、コメント&TBありがとうございます。
わたしも自分を棚に上げて、すごくじれったく読みましたよ~。
のゆり。ほんとスローペースなんだもの。
でも物語が進むにつれて徐々に潔くなってゆくあたりは、
やはりのゆりも一人前の女なのだなぁなんて思ったわたしです。
わたしも負けていられない。

投稿: ましろ(藍色さんへ) | 2008.05.12 14:02

ましろさん、お久しぶりです。
昨日、わたしもようやく読みました。

わたしは、かなりせっかちな性格なのですが、
逆にこの「のゆり」の煮え切らない、のろのろ感が
読んでいて心地よかったです。(笑)
「離婚」を迷う時ってきっとこんなふうなんだろうなと
思いました。(実感こもってます・・・笑)
だって、「結婚」の何十倍、何百倍のエネルギーが
いるそうです。。。。

>時はめぐり、わたしもめぐる。そうして、彼女の決意を胸にしまう。
とてもステキな表現!!

投稿: マリリン | 2008.06.26 22:02

マリリンさん、ご無沙汰しております。
そして、コメントありがとうございます!

のゆり。確かに煮え切らない、のろのろな感じでしたよね。
きっとそこが人間味の表れなのでしょうか。
結婚の経験のないわたしには、離婚を迷うという実感が全くないのだけれど、
それでも「のゆり」というひとりの人間の息づかいを、
間近に感じることができたように思います。

そして、レビュー最後の表現。
お褒めいただきまして、恐縮です。
これからも精進致します。

投稿: ましろ(マリリンさんへ) | 2008.06.27 04:56

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