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2008.03.08

乱暴と待機

20070215_032 つながりたいという切実な思いがあるのにもかかわらず、そのすべを知らない者たちがいる。知らないからどこかしら歪んで、不器用なまでに醜態を晒すその姿は、自分自身にも通ずるものを感じて、ときどき息苦しささえ呼ぶ。そこでは“憎しみ”というひとつの感情が生みだした関係が、血縁関係や愛情関係によりも、強力な結びつきとなっていたからである。本谷有希子著『乱暴と待機』(メディアファクトリー)に描かれているのは、そんな憎しみの上に成り立っている奇妙な関係だ。得体の知れない憎しみを抱き、それに見合うだけの復讐を考え続ける男。いわれのない復讐を相手の意のままに待ち続ける女。二人の関係をつなぐのは、鬱々と横たわる虚しさのようなものだ。

 “復讐相手として憎まれている限り、お兄ちゃんが私から離れていくことはない”人から嫌われるということを極端なまでに恐れる奈々瀬は、英則からのいわれのない復讐を待ち続けることを選んだ。色気を感じさせないスェットとだて眼鏡姿で家にこもり、英則の監視下のもと、日夜笑いのネタを考える。一方英則は、復讐を考え続けながらも、その方法もそもそもの原因も思い出せずに、一年ほど前から屋根裏に潜み、奈々瀬を覗くという行為を繰り返しているのだった。こんな4年にも及ぶ二人の生活の中に、英則の同僚の番上と、その恋人で奈々瀬の同級生のあずさが絡み、複雑なねじれを見せながら物語は展開してゆく。そうして、それぞれの本音が交わるとき、物語は一気に加速する。

 気づかないふり。気づかれていないふり。見え透いていながらも、それを続けることで保ってきた奈々瀬と英則の関係は、“復讐”という名目があるとはいえ、どうかすると崩れそうで、あまりにも脆く思えてくる。それは、本当の意味での憎しみというよりは、半ば強引に憎しみという感情を生みだした結果ではないだろうか。そうして見えてくるのは、恋愛感情にもよく似た思いである。ここまでの執着、しがみつきを見せる英則の言動行動のひとつひとつに、それにひたすら応えようとする奈々瀬の異常なまでの献身的な態度に、おかしな気分になりながらも自分を重ねていることに気づいて、こういうつながりもまた、ひとつの愛をデフォルメしたかたちだよなぁと、認めてしまったわたしだ。

4840121761乱暴と待機 (ダ・ヴィンチブックス)
鶴巻和哉
メディアファクトリー 2008-02-27

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