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2008.03.23

島の夜

20070323_025 束の間、一人旅をした気になる。旅嫌いなわたしは、物語のページをめくりながら、あまりの心地よさにうつらうつらしながらも、遠くの行ったこともない離島のことを思った。見たこともない色をした空のこと、ただ静けさの中に響く波の音のこと、頭上を仰げば広がる満天の星のこと。そうして、一人旅をする人々の心持ちを思いめぐらす。旅する者たちは皆、あやふやで頼りなくて移ろいやすいものを、少しでも確かにしたくて、探し続けているのかも知れない…なんてことを。確かな手触りを。確かな手応えを探して。突きつめれば、モラトリアムを引き延ばすように。木村紅美著『島の夜』(角川書店)を読んで、旅をしたこともないくせに、そんなことを思った。

 物語は、沖縄の離島であるT島を舞台に、写真でしか知らなかった美男の父親のもとを訪れた波子の、濃密な四日間を描く。父親の経営する民宿に集う人々との交流から、さまざまなことを学び成長してゆく18歳の波子。その周囲には、それぞれに事情を抱えたオカマのトシミさんや四十前にもかかわらず処女である小百合さんという、マイノリティが集まってしまう。離島という場所にとって、彼らは異物に違いないだろう。けれど、離島という場所は、どこかでまるごとすべてを包み込んでくれる大らかさを感じさせるところがある。ただ、ここにいるだけでいいんだよ。ただ、ここに存在しているだけでいいんだよ。そんなふうにすべてを許してくれているかのようだ。

 トシミさんが波子にこんなことを語りかける場面がある。“居場所っていうのは、けっきょく、外側じゃなくて、心の内側にしか存在しないものなんじゃないかな。究極の居場所は、なんなのかっていうと、きざな言い方をしちゃうと、孤独なのよ(p54)”人間の究極の居場所。それが孤独であるという考えは、どうかすると、とてつもなく寂しく悲しいことのように聞こえる。けれど自分の居場所という、確かな目に見える場所というのは、どこにもないのである。どこにもないからこそ、探してしまう。探し続けてしまう。ほんの少しでも確かにしたくて。でも、探し続けることは決して無駄なことではない。それが生きる糧になるなら。それがわたしでいる理由になるなら。

4048737988島の夜
木村 紅美
角川書店 2007-09

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