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2008.03.18

人はかつて樹だった

20070318_019 立ちつくす。ただじっと立ちつくす。言葉もなく、音もなく、沈黙のうちに在るように。ただじっと立ちつくす。そうして思うことは、ただ此処に在ることが、わたしにできるすべてだということ。けれど、こうして此処に在ることは、決して不自由ではない。むしろ、此処にいられる自由を感じている。いつかどこまでも根をのばして、確かなものをしかと掴むのだ。いや、そうできたらいいと思う。いつか、いつしか。いつの日か。この場所で生まれたから。この場所で育ったから。だからわたしは此処に在るのだ。だから今を生きていられるのだ。そんな思いを抱いたのは、長田弘著『人はかつて樹だった』(みすず書房)という詩集を読んだからである。

 ここに収められた二十一編の詩、ひとつひとつは、どれもこれも人の心に深く根づく言葉のかたまりだ。かつて樹のように、深く土に根を張りめぐらせていたわたしたちへの讃歌とでも言おうか。わたしたちが今此処に在るということへの、強い肯定の言葉でもある。一人きりで立ちつくす時間を支えるような、そっと共に寄り添ってくれるような言葉。やさしいだけじゃなく、少し距離を置いたところから黙って、けれどちゃんと見守っていてくれる、そんな言葉なのだ。だからこそ、届く。胸にすとんと入ってくる。やさぐれかけた心にも、ちゃんと届く。もう一度、何かを信じられるかもしれない。何かを紡ぎ出せるかもしれないとすら、思えてくる。

 「海辺にて」と題された詩には、わたしたちの周りの至るところに溢れる言葉について紡がれている。この詩では、悲しみに暮れる中、はっと風が吹いて、いっせいに椰子の木が叫ぶのを聞くのだ。“悲しむ人よ、塵に口をつけよ。望みが見いだせるかもしれない。ひとは悲しみを重荷にしてはいけない(p40)”と。木々のざわめき。それをどう聞くかは、それぞれだろう。心のおもむくままに、人は聞くのだろう。わたしはきっと悲しみの中にあるとき、それにどっぷりと浸かってしまうに違いない。けれど、せめて木々などのざわめきには、耳を傾けられる人であれたら…そう密かに乞うのだ。そうして、一人でもしっかりと地を踏みしめて在れれば、と。

4622072297詩集 人はかつて樹だった
長田 弘
みすず書房 2006-07

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コメント

はじめまして、
ブログランキングから来ました。
可愛い猫ちゃんのいろんな表情に癒されました。

自分で本を選ぶのがあまり上手くないので、
あちこちのブログで、お勧め本を探してうろうろしています。
たくさん本を読んでいらっしゃいますね、
また、本選びの参考にさせていただきたいと思います。

投稿: 百子 | 2008.03.18 22:29

百子さん、はじめまして。
コメントありがとうございます!

実はこうしてブログをやっていながらも、
本選びは常に模索状態なわたしですが、
少しでもお役に立てたら嬉しいです。
今後もどうぞよろしくお願い致します。
お互い本との素敵な出会いがありますように。

投稿: ましろ(百子さんへ) | 2008.03.19 12:00

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