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2008.03.10

頭のうちどころが悪かった熊の話

20060805_001 日がな一日繰り返し、繰り返し、誰もが一度は問うてみたくもなるものだ。何のために生きるのか。何のために在るのか。そもそも人生というものの意味とはなんぞや、と。けれど、答えの見えない問いかけは終わりなく続くものだから、極端な話、わたしたちに許されるのは「ま、いいか」という答えだったり、オチだったりする。そこに意味などはない。ただ生きているだけで充分であるかのように。安東みきえ著、下和田サチヨ絵『頭のうちどころが悪かった熊の話』(理論社)は、7つの動物たちの寓話からなる一冊である。シュールでシニカルな物語展開は、自分自身を省みさせて笑みを誘ったかと思うと、身をぐぐっと乗り出してしまうほどに痛快でもある。

 表題作「頭のうちどころが悪かった熊の話」は、どこかでぶつけたことは記憶しているのに、レディベアを探しているという一点以外のことをまるきり忘れてしまった熊が主人公である。おぼろげな記憶を頼りに、いつも傍にいてくれた気がしたこと、あたたかだったことなどを思い出し、次々と出会う動物たちに声をかけてゆくのだった。その様子は、ある種の切実さを感じずにはいられないものがあった。そして、結末のシュールさを思えば、はじまりから既にいくつもの伏線のようなものが張りめぐらせてあったことがわかるのだが、ここでは敢えて言うまい。わたしは読みながら、ただただ熊のこれから向かう先が素晴らしいものでありますようにと願うばかりである。

 他に収録されている「池の中の王様」は、おたまじゃくしのハテが主人公。似たような兄弟たちが無数にいる中で、ハテだけがなぜなぜ坊やだった。何に対しても疑問を抱き、反発する。やがてハテは一人、仲間から離れ、旅立ってゆく。そうして出会ったヤゴのおかげで、ハテは救われるのである。“たとえどんなに離れたって、おれはおまえを見つけられる。友だちってそういうもんだぜ(p95)”“たとえどんなに姿を変えても、ぼくはきみを見つけられるさ。友だちってそういうもんさ(p96)”というふうに。ふたりの友情は、結末でさらに深い友情へと変化してゆくのだが、そこまでの道のりは一見ほのぼのと描かれていながらも、かなりヘビーだったりするのだった。

 ここまで述べてきたとおり、この可愛らしい風体の作品は、かなりブラックな要素を含んでいる。とぼけていながらもどこかシビアであり、それでいてあたたかく包み込む優しさも兼ね備えているのだ。だからこそ、ジャンルを決めかねる一冊だとも言えるのではないだろうか。扱っているテーマは、幅広く、重たいものであるが、それをさらりと読ませてしまうのは、美しい寓話に終わらずに、ひとつひとつに用意されているオチの面白さにある気がしている。その他、悩ましく自分探しをする鹿を描いた「りっぱな牡鹿」、食物連鎖の動物関係を描く「いただきます」、美への憧れとその友情を乞うカラスを描いた「ないものねだりのカラス」なども秀逸である。

4652079028頭のうちどころが悪かった熊の話
下和田 サチヨ
理論社 2007-04-02

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コメント

ましろさん☆こんばんは
真面目に考えているのかと思って、真剣に話を聞いてみたら、実はなーんにも考えていなかったり、答えを出しようがない問題に悩んでみたり、訳の分からない人ってどこにもいるんですよね。
可愛らしい童話のようなフリをして、ものすごくブラックなところがわたし好みでした。

投稿: Roko | 2008.03.18 23:38

Rokoさん、コメント&TBありがとうございます!
いますね~そういう方(笑)
でも、そこが人間の面白さかな、とも思ったりして。
それからホント、この本のブラックさはよかったですよね♪
わたしもかなり好みの本でした。

投稿: ましろ(Rokoさんへ) | 2008.03.19 12:03

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