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2008.02.10

傷春譜

20070208_004 痛い。若さゆえに、痛い。そして、はがゆい。恋するすべを知らないがゆえに、何よりももどかしさがつのる。けれど思う。人はいくつになったって、そんなすべを知らずにいる、と。いつだって誰に対しても、恋する者は皆、無力なのかもしれないのだと。だからこそ、楡井亜木子著『傷春譜(しょうしゅんふ)』(新潮社)の少女たちの思いは、どこまでも痛いほどにじんと胸に響くものがある。いつしか傷つくことを恐れはじめた者にとっては、そのあまりの大胆さに圧倒されることしきりでもある。だが、彼女たちは教えてくれる。年齢など関係なしに、本気の恋があることに。どうしても手に入れたいものがあるならば、何としてもそれを手にしなければならないのだと。

 表題作「傷春譜」。父親と継母と暮らす15歳の磨理枝は、ある意味冷めた目で周囲を見ているような少女である。そんな彼女がある劇団のチケットをもらったことから、一人の役者に一目惚れするのだ。まだ15歳。されど15歳。そんな彼女が彼(どうしようもなく女たらし)を追いかけてゆく様は、子どもでも大人でも何者でもなく、一人の女性としか言いようがない気がした。“わたしのもの”。そう思った先から、するりとすり抜けていってしまう人と人との関係は、あまりにも不確かで、不安定に揺れに揺れて、どうしようもなく怖いものだと思い知らされるようでもあった。あたりまえながら、恋する思いは自由でも、相手の思いはどうにも自由にならないものなのだ。

 物語は恋ばかりを追うわけじゃない。磨理枝のおぼろげな記憶の中にある、母親像と継母との狭間での葛藤も、しっかりと描かれている。誰を憎むわけでもなく生きる磨理枝と相反するように登場するのが、友人の夕凪で(収録作品「あたたかい鎖」では主人公になっている)、彼女はすべてを嫌悪しているのだった。子どもであることも、大人に属することもできずに。いや、むしろ両方に属するからこそ、苦悩するのかもしれない。それでも精一杯に背伸びしてみせる彼女たちの行動や言動の数々を見渡してみれば、どうしようもなく苛ついたある時期というものを思い起こすのだった。あの悶々とした感情とやらを。強い意志で、潔くなれなかった過去の自分自身とやらを。

4103992018傷春譜
楡井 亜木子
新潮社 1994-08

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「この男を今、私のものにしたい」何もかもどうしようもない、という磨理枝と、何もかもどうでもいい、という夕凪。クラスメイトのなかで、どこか違っている二人。子供であることを嫌悪し、大人であることを武...... [続きを読む]

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