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2008.01.29

さようなら、コタツ

20070129_007 書を捨てて街へ出ずとも、部屋の中は意外にもドラマに満ちている。どこよりもくつろげて、どこよりも自分らしくあれる場所。泣いたり、笑ったり。思えば、そこで繰り広げられた出来事や会話の数々は、ときにふっと甦り、奇妙なる心地へと誘ってもくれる。自室を見渡してみれば、どの品々にも思い入れがたっぷりで、何もかもが愛おしい。お馴染みの部屋に思えたって、そこに物語はあるのだ。中島京子著『さようなら、コタツ』(集英社文庫)は、そんな思いを抱かせるに充分な、“へやのなか”をテーマにした短編集である。収録されている7つの物語は、いずれもユーモアたっぷりに描かれ、リアルな生活感とささやかな幸福感とともに、ほろ苦くも可笑しく展開する。

 表題作「さようなら、コタツ」。15年間使ってきたコタツを捨てて、いざ36歳の誕生日に恋人未満の男性を呼ぼうじゃないか、とする物語である。だが、一日中待てども男は来ない…そんなやきもきしている女性心理を描いた物語である。“待つ”ということ。ただそれだけのことなのに、気持ちばかりが先走ってしまう。この悶々とした思いを、一体どうしたものか。いくつになっても悩むのは、もちろん主人公だけでも、読み手であるわたしだけでもないだろう。“心を離して、お姉さん”そんな妹の言葉が、いつまでも頭に残る。世の中には、待たなくても生きられる女性がいるのだろうか。待ち上手な女性というのもいるのかも知れない…なんて思うわたしなのだった。

 また、「私は彼らのやさしい声を聞く」には、年季の入った平屋家屋に住む大叔父と、そこに残る家族の記憶をめぐる物語が描かれている。この世とあの世の狭間。その危うさの中に漂うやわらかな思いを感じ取って、なんだかほっこりとする物語なのだ。ここで登場する姉妹の心地よい会話。それをうっすら聞きながら眠る大叔父。そして、もう一方で(たぶんあの世からの)呼ぶ声がある。その構図が何ともいいのだ。うたた寝のように、安らかに…そういう死の描き方もあるのだな、とただただ感心するばかり。実にあたたかな死なのである。他にも味わい深い作品がいくつもあった。やはり書を捨てて街へ出ずとも、部屋の中は意外にもドラマに満ちているのである。

4087462234さようなら、コタツ (集英社文庫 (な41-2))
中島 京子
集英社 2007-10

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コメント

おひさしぶりです。たまには顔を出さなきゃと思い、
このブログに来てみました。

まず今回の書評を読んで感じたのは、いつものよう
に繊細だな、ということです。

特に冒頭の文章は味があっていいですね。最初の
入りから、本書の紹介へのつなぎにも技術を感じ
ました。

ところで、僕がましろさんの文章を読んで、よく目に
つく言葉があるのです。

それは「愛おしい」という言葉です。この言葉が余程
好きなのか、頻繁に使っていますよね?でも、一般的
にはあまり使われていない言葉ではないでしょうか?
少なくとも僕にとっては、ましろさん以外に「愛おし
い」という言葉を使う人はいません。

このエントリーを読んでいった時も「愛おしい」とい
う言葉が出てきて、「ほら、きたきた!」と思ってし
まったのです(笑)

ましろさん自身、率直なところどうなのでしょう?特
別思い入れのある言葉だとか…。

もし、さしつかえなければ教えてくださいね。

では。マタネッ(*^-゚)/~Bye♪

投稿: デミアン | 2008.01.29 15:07

デミアンさん、コメントありがとうございます!
お元気でしたでしょうか?

「愛おしい」…かなり使ってしまってますね。
サイト内検索で53件ヒットしました。
特にここのところ、ついつい便利に使わせていただいております(笑)
愛おしいさん、ありがとうございます。

考えてみると、あまり思い入れがある言葉ではないのですが、
憧れの言葉ではありますね。
「愛しい」よりも深い言葉のような気がしてしまうんです。
同時に「愛しい」よりもやわらかな印象もあります。
音の響きも好きです…って、思い入れたっぷりでしたね(笑)

何はともあれ、細かく読んでくださってありがとうございます。
昨年の長い休み以降から、納得のいく記事が書けていなかっただけに、
とても嬉しかったです。
では。また。

投稿: ましろ(デミアンさんへ) | 2008.01.29 17:30

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