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2008.01.03

燃えるスカートの少女

20050421_029 冷静な目は、ときとして残酷になる。何かを欲する心をささっと翻し、得も言われぬもの悲しさと、どうしたってまとわりつく痛みへと変えてしまう。希求する想いははぐらかされ、目の前の現実だけをありありと見せつけるようになるのだ。奇想すらも、本当にあり得る現実であるかのように映して。16編の短篇を収録した、エイミー・ベンダー著『燃えるスカートの少女』(角川文庫)。不可解ながらも現実主義的な物語の数々は、どれもこれもが愛おしく煌めき、ときにエロティックで、どこか寂しく悲しみを纏っている。そういう中でも、物語る視点が徹底して冷静さを貫いているのが印象的で、奇想でありながら、現実を忘れさせない芯の強さを感じさせる。

 数ある短篇の中でも、冷静な視点の光る「癒す人」。火の手を持つ少女と、氷の手を持つ少女の物語である。二人は癒す力を持つ、ある種の奇形として描かれている。互いがひとつになることによって、その欠けた部分を補い合い、自分自身をも癒すことができるにもかかわらず、二人にはそれができない。いや、敢えてそれを避けているように描かれる。必要としているのに、それを認めることができない、何とも歯がゆい物語なのである。二人を繋ぐ役割として登場する語り手の<私>は、終始観察者に徹していて、鮮明にその様子を脳裏に刻んでゆく。そして、読み手の心にするりと入り込んで言葉を投げかけてくる。まるで、著者自身の分身であるかのように。

 もちろん、他の作品においても、冷静な視点は感じられる。人間から逆進化を遂げてゆく恋人を見つめ続ける「思い出す人」においても、戦争で唇を失った夫のプラスチックの円盤に封じ込められる「溝への忘れもの」においても、父親が死んだ日に図書館で何人もの相手とセックスすることで心のぶれを確認する「どうかおしずかに」においても。冷静な視点は、どうかすると不可解を通りこして崩壊してゆきそうな物語の手綱をきゅっと握りしめて、現実へと引き戻す役割を持っているように感じられる。そして、もの悲しく痛みを伴う結末を、ほんのりと明るく照らしもするのだ。物語たちが愛おしく煌めくのは、そんな視点あってのものだと思うのである。

 ≪エイミー・ベンダーの本に関する過去記事≫
  『私自身の見えない徴』(2006-12-14)

4042968015燃えるスカートの少女 (角川文庫 ヘ 14-1)
管 啓次郎
角川書店 2007-12

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コメント

こんにちは。

ほったらかしの本の山から引っ張り出してきました(笑)
あまりにも、最初の短篇の衝撃が
あとになってからずんずんきてしまって
なかなか書けなかったんだけど、ふたつめの短篇が出てたのね。
まずいわまずいわ・・・ということで書いてみました。

この人の物語は、表現しずらいね。
世界が素敵すぎて自分の拙い言葉が哀しくなる(苦笑)

またまたましろさん、助けてね。
TB いただきました♪感謝♪

投稿: nadja | 2008.04.07 17:19

nadjaさん、コメント&TBありがとうございます。
そのほったらかしの山、ぜひ覗いてみてみたいものです!
宝物がざくざく見つかりそうなんだもの。

エイミー・ベンダーの作品は、どれもこれも魅力的で、
読み進めれば進めるほどに、どんどん虜になってゆきますよね。
新作はこの前作よりも、研ぎ澄まされた感性が光っていて、
ますますその魅惑は高まってくると思いますヨ。
ガーリーな装丁も可愛らしくて、大満足の一冊です。
ぜひnadjaさんも読んでみてくださいませ~。

投稿: ましろ(nadjaさんへ) | 2008.04.08 16:40

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[ 燃えるスカートの少女 エイミー・ベンダー ] (角川文庫) 人間だった彼を見た最後の日、彼は世界はさびしいと思っていた。 珍しいことではなかった。 彼はいつだって世界はさびしいと思っていた。 それが私が彼を愛していた大きな理由だった。 ~思い出す人 p9~ この地球には、こんなに人があふれているのに さびしくない人は、きっと、ひとりもいない 彼も、彼女も、あなたも、わたしも みんな さびしいから 考えすぎる 考えて考えて、考えす... [続きを読む]

受信: 2008.04.07 17:15

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