夢の果て―安房直子十七の物語
うつらうつらしながら、物語に閉じこめられる。もう此処には戻ってはこられないかもしれない。そんな危うさを察知しながらも、わたしは読むことを止められない。まどろむことも止められない。うつらうつら。そうして浸った、安房直子文、味戸ケイコ絵『夢の果て―安房直子十七の物語』(瑞雲舎)の先にあったのは、現実から一歩踏み込んだところにある、幻想的な世界の連なりだった。もの悲しさや喪失感の漂う世界に待ち受けているのは、決して幸せな結末ではない。けれど、それでも浸りたいほどの魅惑に満ち、胸に静かに迫りくる一冊である。なお、1974年から1986年までの『詩とメルヘン』掲載の全作品17話を、書き下ろし装画を含めオールカラーで収録している。
タイトルにもなっている「夢の果て」。青いアイシャドウに魅せられて、その青い夢の海に溺れてしまった少女の物語である。ここに描かれるのは、人間の欲深さと愚かさゆえに招くことになる死。ぞくっとする後味が何ともいい。「小鳥とばら」では、ある春のまひるにバトミントンの白い羽を追って、少女が生垣の内側で不思議な体験をする。ほんのりと漂う少女の傲慢な思いが、妙に心地よかった。「ある雪の夜のはなし」では、トラックの荷台から落ちてしまったりんごの物語が描かれる。りんごと星が会話するという、まさにメルヘンな展開なのだが、よくよく耳を傾けてみると、案外シビアである。そして、そのあまりにも儚い運命には泣けてくるのだった。
中でも印象深かったのは「天窓のある家」という物語。神経が少し参ってしまった主人公の<ぼく>が、友人の別荘で三日ほどを過ごすのである。三日目の満月の晩、庭のこぶしの木の影がくっきりと落ち、その影に触れた瞬間銀色に光り、思わず影を摘んでしまう主人公…。ここでは光が目映いばかりに描写されていて、とにかく読みながらうっとりしてしまうこと、しばしば。こぶしのまっ白な花が咲き乱れている様子が目に見えてくるようだ。また、木という存在の神秘とその生命力の根源をひしひしと感じる展開でもある。やがて朽ちゆく運命にあるのは、植物も人間も同じ。幻想的な物語の世界に込められたいくつもの想いに、深いため息が出る。
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