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2008.01.10

美少女

20070212_3007 するすると誘われた先にあったしたたかさに、ただぐいと引き込まれる。そこで繰り広げられる人間同士の関係に圧倒されながら。男と女。女と女。複雑に絡み合う人間関係は、ミステリアスな物語展開と相まって、読み手をするりと呑み込んでしまう。そして、どこまでも軽妙で、洒落た語り口とその文体で魅せてゆくのである。吉行淳之介著『美少女』(新潮文庫)は、そんな味わいの一冊である。登場人物たちの設定から、彼らが交わす言葉の端々、小道具の数々に至るまで、ファンサービスに満ちているのも注目だろう。とりわけ、物語全体を通して効果的に用いられている「透明人間ごっこ」は、可笑しくも人間の心髄を突く小道具のひとつである。

 物語は、混血の少女が突然失踪することをめぐるものだ。少女には星と月の刺青があり、どうやら彼女の周辺には他にも刺青のある女たちがいるらしい。放送作家の城田は、少女の行方を追いながら、刺青との関係を探ることになる。途中、バーのホステスの一人が急死したり、刺青蒐集家が登場したりと、失踪の謎はさらなる謎へと追い打ちをかけられてしまう。そして、物語の展開と共に深まる城田の混乱は、同時に読み手の混乱になってゆくのだ。けれど、城田が物語の中で述べているように、この物語は少女を探し出すことに主眼を置いていない。探し出すまでのプロセスを重要視しているように映るのである。つまり、探し出すまでに関わり合う、人と人との関係性を。

 “ぼくの言いたいのは、男と女が一対一でつき合っているつもりでも、その関係はしばしば、いや、いつも、複数と複数とでつながっている、ということですよ”という城田の言葉に代表されるように、思えば人と人との関わり合いは、一対一で向き合っていながらも、その背後には何人もの人間が数珠繋ぎに連なっているようなものなのだと気づかされる。それは必ずしも、見える誰かとは限らない。すれ違いざまちょっとだけ視線を送っただけの人かもしれないし、かつて好きだった人かもしれない。上の空で想ったあの人かもしれない。ほんの少しでも関わり合ったら、その繋がりの列に加わるということなのだろう。人と人とは、何とも複雑に絡み合う運命にあるのだった。

4101143056美少女 改版 (新潮文庫 よ 4-5)
吉行 淳之介
新潮社 2007-12

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コメント

ましろさん、こんばんは。
レビュー読ませていただきました。

内容はさておき、彫りものよりも、城田の行動がもっとも不可解でした。
そのプロセスとやらの間に、よくもまぁ次から次へと、で。
葛藤のなさが、不思議というか…。

ともかく、こうしたいい作品を新しい形(装丁も趣味が変わって楽しめましたし)で
世に出してくれた出版社に感謝。
吉行ファンの僕としては、もっと復刊してくれることを願ってます。

投稿: 門外漢 | 2008.01.12 02:03

門外漢さん、コメント&TBありがとうございます!
内容はさておき(笑)
確かに城田の行動は不可解なものですよね。
よっぽどの美男なのか。色男なのか。
さすが快楽コンサルタントを名乗るだけのことはあります。
でも、不思議といやらしさはなかったですよね。
そして、さらりとしていて心地よいくらいの順風満帆days!
小説だからこそのものでしょうね、きっと。

わたしも復刊は切に希望します!
そういえば、福永武彦の復刊作品も未だ読んでいないわたしです。
読んだ際には、またコメントやTBさせてくださいませ。

投稿: ましろ(門外漢さんへ) | 2008.01.12 10:13

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受信: 2008.01.12 01:45

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