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2008.01.09

乙女ちゃん―愛と幻想の小さな物語

20071204_060 刻一刻と移り変わる時間のように、横顔は自由自在に変化する。すべては愛か。はたまた幻想か。果たしてどんな結末が待っているのか。読み終えるまでどきどきが止まない、佐野洋子著『乙女ちゃん―愛と幻想の小さな物語』(講談社文庫)。収録されている29もの小品は、いずれも先の見えないものばかり。いつ終わるとも知れず、どんな結末になるのかも見えず。変幻自在の物語は、現実を軽く飛び越えてどこへでもゆく。ぱっと見せられたイメージの渦をよい意味で裏切りもする。そうして、どこかエロティックでとぼけた感じのある独特の絵と共に、魅惑の世界へと誘われてしまうのである。その深みに呑み込まれてゆくほどに、時間を忘れてしまうのだった。

 一番はじめに収録されている「犀」。これは、人間であらざる犀(さい)相手にときめく女の物語だ。ひた隠しにしている本音と、表の何喰わぬ顔の描き方が面白い。また、犀と女の淡々とした会話が何だかとても心地よく思える。結末の映画のワンシーンのようなもの悲しさを思えば、その会話やしぐさひとつひとつが何だかあまりにも切なく感じられもする。例えば、やけに丁寧な言葉遣いだとか、礼儀正しい握手だとか…。感情を押し殺した先にあるものを、思わず想像してしまうのだ。犀とは一体何者なのか。貴族の犀とはいかなるものか。そして、犀に惹かれる女の悲しさを思うのだ。人間にないものを求めたわけを。そのどこまでも深く根ざした悲しみを。

 もうひとつ、「汽車」を挙げておく。女の感情の動きが切々と綴られる物語である。汽車の中、沈黙の内に様々な思考を巡らす女。目は様々なものを追いかけ、観察する。誰かと視線がぶつかるのを避ける。ときには夢うつつになりながら。そうやって時間をやり過ごす中、目の前には少女が座っている。まるで、自分の分身のような存在として。寝たふりをしようとする女。しきりに話しかけてくる少女。鋭い観察眼に圧倒されながら、その可笑しくも不気味で、どこか幻想的な物語に酔いしれてしまう。また「ラジオ体操」「鳥と蝉」「銅像」も印象的な作品だった。結末がどこかもの悲しいものばかりだけれども。何はともあれ、どれもこれも味わい深いのだ。

4062645319乙女ちゃん―愛と幻想の小さな物語 (講談社文庫)
佐野 洋子
講談社 1999-02

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コメント

 お久し振りです。
今日はちょっと宣伝に来ました。
実は 1/21 から「裸言-LAGON-」
http://lagon.jp/
というサイトを立ち上げる事にしました。
コンセプトは「言葉のエンターテイメント」です。
頑張りますのでどうぞ宜しくお願いします。

投稿: 暖房 | 2008.01.10 22:30

ご無沙汰しております。
新しいサイト、とても楽しみです!
ぜひ覗かせてくださいね。

投稿: ましろ(暖房さんへ) | 2008.01.10 23:12

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