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2008.01.15

タイコたたきの夢

20050601_919035 追い求めては、夢やぶれて。身を砕いては、散り散りになる。それでも夢に向かうことをやめられないわたしたちは、どこまでも前に進むしかない。本能の赴くままに。わき上がる欲求のままに。ライナー・チムニク文・画、矢川澄子訳『タイコたたきの夢』(パロル舎)は、“もっとよいくに よいくらし”を求めて前進するタイコたたきたちの物語である。ある日突然一人のタイコたたきが現れたかと思うと、いつしかその数は爆発的に増えてゆく。その増殖ぶりは、不気味といってよいくらいである。ある種の伝染病のような印象さえ与える。そして、行く手を阻む敵に対して果敢にも冷静に立ち向かい、あらゆる手段を用いて生き延びようとするのだった…。

 タイコたたきたちが“もっとよいくに よいくらし”を求めて前進するたびに、人々と争いが起こり、多くの者が死ぬ。皮肉にもそれはまるで、夢を抱いてはやぶれて、心を痛めているわたしたちの姿のようである。生きているからには、次々と欲求なるものがわたしたちの中には生まれてくる。だからこそ、それを叶えたい。そうやって大小さまざまな夢を抱いて、誰もが前進する。けれど、それが叶えられるのは、ほんの一握りの人間に過ぎないのだろう。夢に対して抱かれたいくつもの感情は、生まれては消えてゆく。あまりにも儚く、散ってゆくさだめにある。それでも、懲りないわたしたちは、次の夢を追い求めてしまう。厭きもせず、また次の夢を、と。

 だが、この物語には、他の要素も含んでいる。たった一人きりだったタイコたたきの行動が、多くの者の心を動かしたこと、である。だからといって、そこには代表なる者は存在していない。主人公がいないのである。皆、同じように夢を追う人々なのである。そこに、何だかとても救われる気がするのは、わたしも同様に夢を追う者だからなのだろう。叶う夢は僅かかもしれない。それでも、追い求め続けることは無駄なことではないと、どこかで信じていたいのだろう。追い求めては、夢やぶれて。身を砕いては、散り散りになる。それでも夢に向かうことをやめられないわたしたちは、どこまでも前に進むしかない。本能の赴くままに。わき上がる欲求のままに。

4894192284タイコたたきの夢
Reiner Zimnik 矢川 澄子
パロル舎 2000-12

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