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2008.01.14

セーヌの釣りびとヨナス

20070226_001 簡潔さの中にある、おかしみと哀しみ。奥底に根ざす、人の存在というものの根源的な部分。そういうものを、ライナー・チムニク文・画、矢川澄子訳『セーヌの釣りびとヨナス』(パロル舎)の中に感じた。チムニクのユーモラスな魅力たっぷりで、批評精神を感じる線画は、どのページでも味わい深く楽しめるものばかり。そのダイナミックな構図と発想に思わずじっと見入ってしまう。装幀は、さすがはパロル舎というだけあって、こだわりある凝ったつくりなのも、読み手としては嬉しいかぎりである。淡いグレーの紙は、厚くもなく薄くもなく、独特の手触りでチムニクの画を引き立てている。大人のための贅沢な書物といった感じである。

 物語の舞台はパリ。セーヌの河岸では釣り人たちが年中座り込んで、ほんのちっぽけな魚を釣っている。そういう釣り人の一人であるヨナスは、ひとつの願いを持っていた。それは、一生に一度でいいから大きな魚を釣り上げること。ある晩、神さまによってアイディアを与えられたヨナスは、ついにその願いを叶えることになる。けれど、釣りそのものを楽しんでいた釣り仲間たちからの怒りを買い、街を追いやられてしまうのである。そうして、ヨナスは世界中をめぐり、釣りの名人ぶりを発揮してゆく。ついには、“釣りの王さま”にまでなってしまうヨナスである。だが、彼の中である時を境にして、ふっと何かが変わり始めるのだ。

 ヨナスが釣り人として世界中でその力を発揮してゆくさまは、人間のとどまることを知らない欲望を想起させる。もっと大きな魚を。もっともっと大きな魚を、と。ひとつ手に入れたら、もっと欲しがるのは、人の常というものか…。我が身を省みて、恥じ入ることばかり、である。きっとヨナスという人物像は、わたしたちの鏡のような存在なのだろう。また、この物語で面白いのは、その偉大なる欲望を満たす助けを、神さまがしている、というところにある。願いを叶えるというニュアンスと少々趣が異なるのは、わたしの深読みかもしれないが。こういう細かなところで、チムニクの独自の魅力を感じてしまうわたしなのだった。

4894192616セーヌの釣りびとヨナス
Reiner Zimnik 矢川 澄子
パロル舎 2002-09

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