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2008.01.26

幻想小品集

20070126_44003 きらめき逝くその刹那に魅せられるように、何かにすっと心奪われる。ただ単に惹かれるのではない。心の奥底から惹かれる、のである。全身全霊で。わたし、まるごと、全部で。それはまさに、命懸けでもある。周囲がどう思おうが、当人にとっては。そして、きらめきの刹那だからこそ、狂おしいほどに愛おしい。嶽本野ばら著『幻想小品集』(角川書店)は、そんな野ばら節をあちらこちらに散りばめた、短編集である。ゴシック・ロマンスと銘打たれているだけあって、その世界観は耽美でどこか痛々しく、ときに胸が張り裂けそうにさえなってくる。愛とはこんなにも痛く、孤独なものなのか。読み手であるわたしは、ただ物語に酔いしれるばかりなのだった。

 収録されている7つの短編は、睡眠導入剤に魅せられて、ある光景が頭から離れない作家の姿を描く「Sleeping Pill」、 嗜眠性脳炎という通称眠り病の研究に魅せられた主人公を描く「Somnolency」、ゴシックに目覚めて自分を解放してゆく「Double Dare」、ピアッシングによって自分を解放してゆく「Pierce」、真珠に魅せられた学者の語りである「Pearl Parable」、悪魔を信仰することで自分を支える少女を描く「Religion」、チョコホリックに娘を仕立て上げる父親を描く「Chocolate Cantata」。いずれの作品にも感じられる、ある種の孤高さに強く惹かれた。きっとそれは、大なり小なり誰もが抱え得る闇の部分を、デフォルメして描いているからなのだろう。

 人には、どうしたって他者とは相容れない部分がある。それを孤独と呼んで鬱ぎ込むか、果敢にも孤高の人となるかは、自分次第である。物語の中では、相容れないことを敢えて肯定し、迷える孤高の魂を救おうとしているのが特徴的だといえる(実際に救われるかどうかは別として)。そして、読み手であるわたしたち(つまり君)に対して、どこまでも誠実であろうとするがゆえの苦悩なるものを感じずにはいられない。だから痛い。ひどく痛い。つうんと胸に痛みがはしる。そうして、この世界が醜悪なことにも気づかされてしまうのだ。耽美な世界を目の前にしながらも、そう感じてしまうのは、あまりにもくらくらと酔いしれたからだろう。狂おしく、愛おしく。

4048738135幻想小品集
嶽本 野ばら
角川書店 2007-12

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