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2007.12.15

氷の海のガレオン/オルタ

20061207_006 ある種の疼きを呼んで、記憶が鮮明によみがえる。同化してはいけない。共鳴してはいけない。かといって、拒絶してもいけない。木地雅映子著『氷の海のガレオン/オルタ』(ピュアフル文庫)に向き合いながら、そう言い聞かせれば聞かせるほどに、わたしの中で何かが揺らぎ始める。思い出したくなどない。けれど思い出してしまう、言うべき言葉を持たなかった日々、要領よく生きるすべを知らなかった日々、孤高になどなりきれなかった日々…の記憶の数々。それらを封じ込めていた頑なな思いは、いつしか物語と絡まり合い、溶け込み、いくつかの答えを導き出そうとする。そのままでいいのだ。そういう生き方もあるのだ、と。

 本と両親から言葉を学んだ杉子は、自分の言葉が周囲に通じないことに気づいている。そんな彼女の居場所が学校にはあるはずもなく、「わたしは天才だから」と強がって見せたところで、ときに何もかもがわからなくなったり、孤独に押し潰されそうになったりしているのだった。物語は、言葉についてあれこれと思いをめぐらす杉子の心情を、丁寧に掬い取ってゆくのだが、とりわけ、親密になった風変わりな音楽教師と杉子との会話は象徴的で、語られなかった言葉の奥深くの部分を考えさせられる。周囲との距離、疎外感。そう安易に言ってしまうことが憚られるような、その切実なる思いに、わたしは何か熱いものを感じずにはいられなかった。

 もうひとつ収録されている「オルタ」。こちらは、アスペルガーの子・オルタの母親の視点で描かれている。わかるということ。わかろうとする、ということ。それを大切にして、じっと子を見守る様が、読み手にじりじりと迫りくる展開だ。語り手の熱き思いに賛否両論はあるかもしれないが、ひとつの生き方として、その信念はとても凛として見えてくる。そうして気づかされるのは、こうして密接に見守ってくれる存在があることの強み。先の杉子にしても、わたしにしても、きっとそういう存在に救われて日々生きているのだということ。そして、そっと見守りながら言って欲しいのだ。そのままでいいのだよ。そういう生き方もあるのだよ、と。

486176355X氷の海のガレオン/オルタ (ピュアフル文庫)
木地 雅映子
ジャイブ 2006-11

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コメント

試しに送ります

投稿: マリリン | 2007.12.16 13:53

ましろさん、こんばんは。

ましろさんもこの本を読んでくれて嬉しい♪
これを読み返すことは、わたしにとって試練です。
でも、時々読み返さないでいられなくなる。
なぜなんでしょう?(苦笑)

13年後に書かれた『悦楽の園』
これも、すごい作品です。
ただ、ラストの部分が、ちょっとね~、なんだけど。
機会があったら、こちらも読んでみてほしいな♪

えっと、次、記事更新するときに TBさせてください。
お願いします~♪

投稿: nadja | 2007.12.16 19:24

マリリンさん、ちゃんと届いてますよー。
どうもありがとうございます!

投稿: ましろ(マリリンさんへ) | 2007.12.16 23:05

nadjaさん、コメントありがとうございます。
この作品。実はnadjaさんのところでお見かけしてから、
ずっと気になっていたのです。
『悦楽の園』の厚みに挑戦する前に、と思って読みました。

でも、どうもうまく言葉にできず・・・。
苦心のすえ、こんなんになってしまいました・・・。
今のわたしにはこれが精いっぱいみたいです。
TB。恐縮です。こちらからも近々させていただきますね!

投稿: ましろ(nadjaさんへ) | 2007.12.16 23:20

こんにちは。
本好き、なんて言っている人間の鼻持ちならなさ、みたいなものを自分自身に感じていて、そうした「腐臭みたいなもの」との付き合い方の難しさを感じます。この本を読んでいて、サリンジャーのグラースサーガを思ったのですが、そういう感慨自体もペダンティックだったりして、なんだか、言葉に窮してしまうものだなと思うところです。鼻持ちならない小生意気なガキは、どのようにしてオトナになるべきか、というテーマは、社会人生活初期にはままあって、どうバランスをとるか苦慮したものですが、今はなんとかなっているのかなあ。この本の持つ、イヤな感じは、むしろ、自分の過去のイヤな側面を見ることで、周囲や環境を責められないなあ、と僕は思ってしまうのです・・・。

投稿: ともお | 2007.12.18 12:49

ともおさん、コメントありがとうございます。
おっしゃるように、確かにこの作品はある種のイヤな感じ(作品自体は好きですが)、
非常にむんむんと漂ってますよね(笑)。
本好きで本に関するブログなどやっている方々の多くは、
同化するもんか、共鳴するもんか…と思いつつ、
きっと杉子に過去の自分を重ねてしまうのでしょうね。
わたし自身、オトナになりそこねたクチだったりするので、
ともおさんのご意見はとても身に染みております。
「本はともだち」だった乙女には、頭の痛いお話でした。

投稿: ましろ(ともおさんへ) | 2007.12.18 17:10

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[ 氷の海のガレオン 木地 雅映子 ] ・・・言葉・・・ 人と人とのコミュニケーションに必要なもの 意志・思想・感情などの情報を表現し伝達する手段 受けとって理解するためのもの 同じ日本語を使って会話しているのに 言葉が通じていない気がすることがある 話す言葉がみつからない 返す言葉がみつからない いつからか感じ続けてきた不安は 違和感のようなもの、疎外感のようなもの、という 得体の知れない重苦しいカタマリとなって 未だに私の中に居座って いく... [続きを読む]

受信: 2007.12.22 18:32

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