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2007.12.30

海獣の子供

20071228_004 日常からかけ離れた異世界。目にし得ることができない現象。ぱっと広がるその深みに圧倒されて、海という場所に潜む不穏な気配すら、美しいものと変わり果てるのを見た気がした。それほどまでに説得力ある描写にぐいと引き込まれる、五十嵐大介著『海獣の子供』(小学館)。まだ『月刊IKKI』にて連載中ゆえに、既刊の1・2巻の導入部しか読んでいないが、それでもこの作品の魅力にすっかりはまってしまった。とりわけ、その緻密なタッチで魅せる画風は、深海や魚介類などの妖しい美しさを存分に描いているように思う。個人的には、著者のカラーの画が好きで、ちょっと雑(に見せている?)で何色にもわたるニュアンス至上主義的な画にとても惹かれる。

 子供の頃、水族館で“海の幽霊”を見た記憶を持つ琉花。そんな彼女が、海の中で生まれジュゴンに育てられたという少年たち、海と空と出会ったあたりから、世界中では海に異変が起き、水族館から魚が消えてしまうという現象が頻発しはじめる。魅惑的な深海の光景、少年たちに纏わる謎、少年たちに魅せられた大人たちの動向や過去などなど…少年少女たちの物語の間に断片的に挿入されるエピソードの繋がりや意味が明らかでないゆえに、目が離せない展開だ。海や空の行く先に待ち受けているものが何であるのか。琉花が今後、どう成長してゆくのか。また、さまざまに絡まり合う大人たちの思惑とどう向き合ってゆくのかも気になるところである。

 この「海獣の子供」の中でもとりわけ印象的なのは、琉花と海との出会いだった。きっと多くの人が、飛ぶように美しく泳ぐ少年の姿を食い入るように見つめてしまうに違いない。もうそれだけで、この物語の導入部は成功していると言ってよいくらいだ。そして、もちろんその後も海の中を泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ…。ときにどきりとさせるほどに物憂げだったり、子供らしからぬほどに穏やかだったり、表情をくるくると変えながら、静けさの中にも危険を孕んだ海の世界を、存分に楽しませてくれるのだ。そうして、普段は目にできないような異世界へもそっと誘ってくれる。わたしのように山間部に住むような者にとっては、まさに夢の国そのものなのだった。

 ≪五十嵐大介の本に関する過去記事≫
  『カボチャの冒険』(2007-08-18)

4091883680海獣の子供 1 (1) (IKKI COMICS)
五十嵐 大介
小学館 2007-07-30

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4091883699海獣の子供 2 (2) (IKKI COMICS)
五十嵐 大介
小学館 2007-07-30

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(平日ナイトパック5時間680円)*1   「海獣の子供」1巻2巻(五十嵐大介)を読む。面白い。 海洋SF。 1巻の最初の数頁で「何か難しい話かな」と危ぶんだけど、全然大丈夫。すらすら読めるというか、コマの流れを追っていくうちに浮遊感すら感じた。視点というか構図というか、... [続きを読む]

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