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2007.12.23

佳人の奇遇

20071204_5039 人の数だけ物語が生まれて。そうしてそこには、奇跡が集う。いくつも、いくつもの。一夜にしてゆらめき、煌めきを見せる奇跡は、わたしたちをそっと導いては、その瞬間をひどく愛おしいものに感じさせる。どんな奇跡であれ。どんな愛おしさであれ。島田雅彦著『佳人の奇遇』(講談社)は、ある日のコンサートホールに集う人々の、恋や人間模様を描いた作品である。オペラ「ドン・ジョバンニ」の展開と様々に絡まり合い交じり合う人々の様子は、滑稽ながら真剣そのものであり、コンサートの一夜に懸ける思いの強さに、思わずじんとなる。また、著者独特の皮肉たっぷりの毒気も端々に感じられ、一ファンとしては満足の一冊となっている。

 極度のあがり症でわがまま放題なテノール歌手の辻アンドレ、元ホステスでアンドレの即席マネージャーのまどか、現代のドン・ファンとも言うべきプレイボーイの指揮者であるマエストロ、出勤途中に初恋の人を見かけてまわりくどい作戦に身を投じる春香、春香の恋に振り回される“彼女いない歴”の長い非常勤講師の太田、42歳にして路上生活デビューを果たそうとしている植島、長男の嫁にひそやかな恋心を抱いている龍野…などなど、様々な登場人物の織りなす物語が、一夜にして変化する。それぞれにとっての奇跡として。そして、「ドン・ジョバンニ」の盛り上がりと共に物語は急速な展開を見せ、面白いほどに読み手のこころを鷲掴みにするのだ。

 この物語に描かれる奇跡は、どんなかたちの奇跡であれ、一応はハッピーエンドなるものだ。わかりやすいものから、あまりにも淡く儚いものまで。それはある種の救いであり、ほんのりとした愛おしさのようなものだったりする。ある者にとっては命懸けの。ある者にとっては一生ものの。そんな一夜に起こった奇跡の数々は、それぞれの胸にいつまでも秘められ、この先も思い出されるに違いない。その一夜に懸けた分だけ、鮮明に。ぬくもりに満ちて。思いを遂げた者だけに訪れる、奇跡として。どんな奇跡であれ。どんなかたちの奇跡であれ。きっと誰にも一度は訪れる。そう信じてみるのも悪くない。信じなければ何も起こらず、始まりもしないのだから。

4062140055佳人の奇遇
島田 雅彦
講談社 2007-10-30

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コメント

ましろさんの世界ってなんだろう
整然として、それでいて魅惑的で素敵ですね

いつも紹介してくれる本も魅力的・・・


読んでみますね


投稿: マリリン | 2007.12.24 15:09

マリリンさん、コメントありがとうございます。
“読んでみたい”そう思っていただけると、
書き連ねている甲斐があるってものです。
どうもありがとうです!

投稿: ましろ(マリリンさんへ) | 2007.12.24 20:54

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