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2007.12.31

嘘ばっか―新釈・世界おとぎ話

20070109_027 幼い頃耳に届いた物語は、どれもこれもが“めでたし、めでたし”で終わっていた気がする。或いは、悲劇的な感動物語として。一体何がめでたいのか、一体何が感動なのか、それを深く考えることもなく、疑うことをちっとも知らなかった。わたしの主観は語り手の思うつぼだったに違いない。誰もが知っている26篇ものおとぎ話をパロディにした、佐野洋子著『嘘ばっか―新釈・世界おとぎ話』(講談社文庫)は、わたしのように物語を鵜呑みにしてきたような者にとって、ある種のショックを抱く一冊である。こんなにも痛くて、可笑しくて、官能的で、自由な解釈があることに驚かされるのだ。著者の独特のユーモアとからっとした語り口も、とても魅力的だ。

 とりわけ、母親の言いつけを守って、純潔のまま30になる女に設定されている「赤ずきん」、あまりにも官能に満ちた痛みを描いた「ラプンツェル」、いつまでも大人になろうとせずにやがて心を病んでゆく「親指姫」、どこまでも悲劇のヒロイン気取りの「マッチ売りの少女」に心奪われた。また、「羽衣」の男の心情は、夫婦の倦怠期を描いたような物語で、思わずにんまりしてしまった。無言のうちに吐き出される内面は、「羽衣」そのものの世界観を保ちながらも、現代のわたしたちの生活感を匂わせる。ある意味で非現実的なおとぎ話と生活感。それを同時に描き出してしまう著者の力量に圧倒される。そして、そこには毒も忘れないのだから、もう唸るしかない。

 この「嘘ばっか」。著者による装画は、どの物語に添えられた画も、もれなくエロティックで大胆である。まるで、何百年も生き残るおとぎ話の呪縛から解き放たれたかのように。そしてそれは、幼い頃に聞かせられたおとぎ話に纏わる記憶の呪縛からも、解き放ってくれるような力強さである。おとぎ話は耳にこびりつく。いつまでも、いつまでも。多くの物語がある中で、どうしてこうも心を鷲掴みにされるのか定かではないが、幼いながらに感じたその衝撃と共に、何度も繰り返し読み聞かせられたことに影響しているように思う。そのしぶとさに感服しつつも、人を惹きつけて止まない魅力を認めるしかない。同時に、おとぎ話に深く根づく痛みをも。

406263757X嘘ばっか―新釈・世界おとぎ話 (講談社文庫)
佐野 洋子
講談社 1998-03

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