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2007.12.18

カフカ 田舎医者

20061125_004 人間社会に渦巻く、さまざまな葛藤や不条理というもの。人はそういうものと対峙して、どうにかこうにか生きねばならない。いや、“生きよ”と、生まれ落ちた瞬間から呪縛のごとくに背負わされているのだ。その重き呪縛に苦悩するがゆえに、ときに人はふっと揺らぎを見せる。大きくその均衡を揺るがすほどに、ぐらぐらと揺れもする。そうして、ときにはほろほろっと思いを吐き出してみたくもなるものだ。そんな心情の揺れを、デフォルメされたキャラクターの歪みで描いた、文・絵=山村浩二による『カフカ 田舎医者』(プチグラパブリッシング)。『頭山』、『年をとった鰐』などの作品で知られる監督(著者)の同名短編映画の大人向け絵本バージョンである。

 猛吹雪の夜、急患の知らせが届く。けれど、馬がいない。女中が馬を探して歩くが何処も貸してはくれない。そんな中、壊れた豚小屋から馬と馬丁があらわれ、女中と引き換えに無理やり馬に乗せられてしまう主人公の医者。患者の少年は「先生、僕を死なせて」と囁く。やがて「僕を助けてくれるの?」と少年は問いかけてくるものの、脇腹には傷がぱっくり口を開けている。医者はどうにもできない現実を前に絶望感に苛まれ、自分の不運を嘆くのだった。主人公の心情に添うかたちで時間軸が揺れを見せる上に、著者がさらに絵画でキャラクターをグロテスクなまでにデフォルメし、頭部も身体も縦横無尽に伸びたり縮んだりして歪ませているのが印象的だ。

 この作品の冒頭にはカフカの蔵言のような言葉が添えられている。“本当の道は、一本の綱の上を通っているのだが、綱が張られているのは高いところではなく、地面すれすれである。それは歩かせるためというよりむしろ、つまずかせる為のものの様に見える”と。この言葉はまさに、人間社会の在り方、人生の縮図のように感じられる。生きよ、そう生まれ落ちた瞬間から命じられているわたしたち。苦悩するがゆえに危うい均衡の中に立たされるわたしたちに、その孤独で絶望的な道を、それでもゆくしかないのだと云わんばかりに。嗚呼、生きるのだ。生きるしかないのだ。どうにかこうにかして、日々を繋ぐのだ。カフカの言葉に、わたしはそんなことを思った。

 ★映画『カフカ 田舎医者』公式サイトはコチラ

4903267679カフカ田舎医者
山村 浩二
プチグラパブリッシング 2007-11

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コメント

おお!こんな作品やってたとは!
知らなかった知らなかった知れて嬉しきです。ありがたき。

まずアニメ観てきます!

投稿: マルハゲ | 2007.12.19 02:53

マルハゲさん、コメントありがとうございます!
わたしも昨日まで知りませんでした。
地方でも観られたらよいのになぁ・・・
予告編だけでもぞくぞくしちゃってます。
過去の作品『頭山』は某所で観ることができるので、
そちらと絵本で今は我慢我慢です。うー観たい!

投稿: ましろ(マルハゲさんへ) | 2007.12.19 09:02

うー無念が伝わってきます。
そういうこともあるんですね。

なんだか心苦しくもありますが、
お先に失礼しちゃいます!

投稿: マルハゲ | 2007.12.20 04:42

マルハゲさん、映画堪能してきてくださいませ!
また感想など聞かせていただけると嬉しいです。

投稿: ましろ(マルハゲさんへ) | 2007.12.20 09:04

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