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2007.11.11

真夏の航海

20071109_018 怖いものなど何もない時期というのがある。自意識に目覚めて、やがて恋をして、そうしてあてもなく疾走してゆくような時期が。それは、自分を無闇に傷つけること、汚してゆくことに夢中になっている時期でもある。人は長く生きてゆくと、自分で自分を傷つける必要などないくらいに、様々なことに否応なしに傷ついてしまう。そして、どれほど抗おうとも年相応に汚れてゆく。にもかかわらず、怖いもののない若者たちはあてもなく疾走してゆくのである。10代の。まだ大人とも言えず、子どもとも言えない。そんな曖昧な立ち位置。きっとそれらは、彼らに揺さぶりをかけるのだろう。だから彼らは、自分なりのやり方でもがき足掻くしかないのだ。

 ニューヨークを舞台に展開する、トルーマン・カポーティ著、安西水丸訳『真夏の航海』(ランダムハウス講談社)は、17歳の少女・グレディのひと夏の物語である。いわゆるセレブリティとして育った彼女は、古い考えに縛られている母親との間に確執を抱えている。また、平凡な暮らしを選んだ姉に対しても、ある種の反感を抱いているように見える。そんな理由からなのか、身分の違うクライドとの恋を選んでしまうグレディ。家族の見知らぬところで進んでゆく二人の恋は、危ういバランスを保ちながらも、あるひとつのかたちへと結ばれてゆく。まだ未成熟な彼らの、その怖いもの知らずの姿が、痛々しくも繊細に描かれている作品である。

 中でも、物語の最後の部分に描かれている車での疾走シーンは、とりわけ未成熟な彼らを象徴しているように思える。この先のことなどわからない。今がすべて…そんな彼らの思いが聞こえてくるような気がするのだ。だからこそ、描かれなかったグレディの未来の部分の波瀾万丈さが伝わってくる。そして、若さというものの罪深さを痛烈に思わせもする。そう、これは、あまりにも刹那の青春ラブストーリーなのだった。また、この『真夏の航海』という作品は、カポーティの幻の処女作と言われているものだったりする。出版の経緯はかなり複雑ながら、どんなかたちであれ、こうして多くの読者に届いたことは喜ぶべきことなのだろう。

 ≪トルーマン・カポーティの本に関する過去のレビュー≫
  『誕生日の子どもたち』(2006-04-28)

4270001429真夏の航海
安西 水丸
ランダムハウス講談社 2006-09-14

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コメント

こんばんは。
カポーティはかな~り前に読みました。
さめた、というか・・・なんだろう?
乾いた雰囲気っていうのかな?そんなところが好きで、
いつものごとく濫読を重ね(笑)
主だったところはコンプリートしたと思っていたのですが、この作品は知りませんでした。
昨年刊行された処女作なのですね。
ましろさんのレビュー読んだら毎度のごとく読みたくなっちゃいました(笑)

わたしは、カポーティ
「夜の樹」という短篇集が特に好きでした。
読んでますか?
もしも読んでなかったら機会があったら読んでみてくださいね。
短篇なので、楽に読めると思います。
いつか気が向いたときにでも。

投稿: nadja | 2007.11.11 23:35

nadjaさん、コメントありがとうございます。
わたしもつい先日まで、この作品のことは知りませんでした。
図書館で見つけて“お、おぉー!”となって読んでみたんです。
これまで発表されてきたカポーティの雰囲気とは、
ちょっとばかり違っていて、なんだか新鮮でした。
訳の違いもあるだろうし、出版経緯もあるだろうけれど、
何しろカポーティ自身の若い感性が溢れている!
そのあたりのことは、ぜひ手にとって読んで、味わってみてください。

そして、「夜の樹」。
実は以前レビューした「誕生日の子どもたち」と、
いくつか作品がかぶっていて、ブログには取りあげていないのですが、
わたしも好きな短編集ですよ★

投稿: ましろ(nadjaさんへ) | 2007.11.12 11:15

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