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2007.11.07

まっぷたつの子爵

20071021_046 ふたつの自己に引き裂かれて、ここに在る自分自身を知る。不完全な存在であるからこそ感じる、つらさや苦しみ、痛みは、きっとこの世界を取りまく深い闇に通じているのだ。何らかの欠如がもたらすまなざしは、すっと奥まで見据えることができると信じたい。信じていたい。イタロ・カルヴィーノ著、河島英昭訳『まっぷたつの子爵』(晶文社)は、戦争を背景にした奇想天外な物語である。砲弾をあびてまっぷたつに吹き飛んでしまったメダルド子爵が巻き起こす騒動の数々は、人々を混乱させる。左右別々のメダルド子爵は、それぞれに非人間的な悪徳さと美徳さを持ち合わせて、読み手のわたしたちの中に潜む闇の部分をひどく刺激してゆく。

 物語の闇の部分。それはやはり、戦争という悲劇に纏わるものだろう。物語の前半部分に描かれている戦場の光景は、滑稽に描かれつつも、当然のことながら生々しい。そういう中で描かれているメダルド子爵のまっぷたつに裂かれた要素(悪と善)は、人間の醜さの象徴のように思えてくる。戦争というもののもたらす、光と影を表しているような。そして、戦争における生と死ということを表しているような。もちろん、これはあくまでもメルヘン的要素の高い物語であるから、それほどまでに深刻に読む必要はないのだろう。けれども、メダルド子爵の悪の部分が全開に展開する場面になると、ついわたしは闇の部分に焦点をあてて読んでしまうのだった。

 また、この物語の語り手であるメダルド子爵の甥である<ぼく>が、イタロ・カルヴィーノ本人を思わせるところも見逃せない。物語の端々で孤独で退屈な日常についてぼやいている場面や、すっかり空想の世界に浸っているあたりが、心憎いのである。物語は、この<ぼく>の成長と共にあって、奇妙な登場人物たちとの関わり合いが描かれてゆく。中でも、メダルド子爵に振り回されるだけ振り回される(死刑台を作る)親方の苦悩は、とても親しみを覚えるもので、相反する自己との闘いの困難さを感じさせた。メダルド子爵を振り回す側であるパメーラの存在は、物語唯一の花で、この物語になくてはならない存在だったように思う。

4794912439まっぷたつの子爵 (ベスト版 文学のおくりもの)
Italo Calvino 河島 英昭
晶文社 1997-08

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