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2007.11.14

マルシェ・アンジュール

20061108_029 わたしは日常の中に、どうしても非日常をおきたくなる。あの、有名な夢の国みたいに、大げさなものじゃなくてもいい。ほんのりと夢見心地になれる瞬間というものが欲しいと常々思っているのである。たとえば、束の間、本の世界に逃避する。たとえば、映画に魅入ってみる。音楽にどっぷり浸るのだっていい。但し、厭きやすいわたしには、どれをも受けつけない時というのが必ずやってきて、そんな時に思うのだ。もっと別な非日常を見つけなくては。現実をよりよく生きるための手段としての、別の何かを。夢の国にまで行くまでもなく過ごせるような手段を、と。もちろん、きっと非日常に逃避せずに生きられるに越したことはないのだが。

 野中柊著『マルシェ・アンジュール』(文藝春秋)に登場する、高級スーパーマーケット・マルシェ・アンジュールは、ある意味人々を幸せに導く非日常の象徴のような存在である。毎日行くには敷居が高く、品物の値段も高い。けれど、そこに並ぶ色とりどりの物を眺め歩くだけで、誰もがうっとりとなってしまう。そしてデリカテッセンには、下手な店よりおいしいものがたくさんある。そんなところを舞台として、物語に登場する人々は束の間の時間をゆったりと過ごしてゆくわけである。ときに誰かと出会い、ときに恋をし、ときに絆を深くして。日常の中にぽっと浮かんだ非日常が、人々にささやかな幸せを運んでくれるのを目の当たりにする一冊だ。

 「初恋」「予感」「記憶」「距離」「星座」「聖夜」と6つの物語からなる中で、わたしがとりわけ印象に残ったのは、「距離」だった。主人公の女性は、土曜日になるまで恋人と会えないばかりか、連絡もほとんど取れない中、自分なりのささやかな幸せを見つけるすべを知っていた。彼女曰く“幸せになるって、かんたんなことね”。もちろん、簡単なはずはないのだが、そう自分に言い聞かせることで人は束の間、自分が自分ですらなくなる瞬間を味わうらしい。何かにとけこむように何者でもなくなる…。そんな冒頭からぐっと引き込まれて読んだ先にあるものは、きらきらした日常というもの。彼女なりの非日常のおき方に、新しいはじまりの兆しを感じた。

416326390Xマルシェ・アンジュール
野中 柊
文藝春秋 2007-10

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コメント

こんばんは。
6つの物語、どれも野中さんらしい味わいでしたね。
マルシェ・アンジュールに行ってみたくなりました。
「距離」は、ちょっと不安定な感じが好きです。

トラックバックさせていただきました。
表示されてないので、ちょっと不安です…。
遅くなりましたが、
今年もどうぞよろしくお願いします。

投稿: 藍色 | 2008.01.14 02:15

藍色さん、コメント&TBありがとうございます!
いいですよね~、マルシェ・アンジュール。
実際にあったら、わたしも頻繁にでかけてしまいそうです。

TB。無事に届いておりました。
すぐに反映しなかったみたいで、すみません。
そして、こちらこそ今年もよろしくお願い致します!

投稿: ましろ(藍色さんへ) | 2008.01.14 10:04

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