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2007.11.12

百鼠

20071109_007 小さな幾つもの疑問符が浮かんでは消え、浮かんでは消えてゆく。わたしの知らない世の中の表層と水面下で起こっていることだとか、しばし混乱をまねく一人称と三人称との関係性のことだとか、物語におけるある種の分身としての自己のことだとか…。吉田篤弘著『百鼠』(筑摩書房)を読みながら感じたそれらのことは、淡くも確かなしこりとなって、わたしの中をぐるりとめぐりめぐった。読みやすい筆致で、次々と繰り出される言葉の迷宮に酔いながら、ゆうるりのんびり至福の時間を味わったのだった。収録作品は「一角獣」「百鼠」「到来」の3つ。いずれもほんのりと連作めいているあたりが、心憎いところだったりする。

 まずは「一角獣」。この作品では、主人公のモルト氏とその恋人の関係性のゆらぎが描かれている。なかなか結婚に踏み切れない、煮え切らない態度に、読み手としては親近感とじれったさを感じつつ。そこへユニークなキャラクターである恋人の兄や、モルト氏の妹が絡んできて、興味深い会話を繰り広げてくれるのである。例えば、水面下の世界について。そこでの繋がり(例えば兄妹というもの)について。そういうことを意識するだけで、何だかずいぶんすべてのことが違ったものに映る気がする。そしてきっと、水面下で眠る何かを考えるときの心持ちは、目に見えないものを信じる思いと似ているのではないだろうかとも思うのだった。

 表題作の「百鼠」。これは、天上に暮らす<朗読鼠>の物語である。いわゆる地上というところで、作家が三人称の<物語>を紡ぐのを管理するのが仕事。物語では、この三人称に縛られた世界で、一人称の魅力を知ってしまった<朗読鼠>の葛藤が描かれてゆく。一人称、三人称の話が、はたまた自分自身をめぐる客観と俯瞰へと発展するあたりが痛快である。また最後の「到来」では、母親の小説の中に登場する<彼女>と主人公の<わたし>との関係性が印象的である。わたしは彼女であって、彼女は作り直されたわたし…そんな分身としての自己を物語に見つけてしまうのである。こうして書き連ねてゆくと、物語とは実に奥深いものだと痛感する。

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吉田 篤弘
筑摩書房 2005-01

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