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2007.11.16

針がとぶ Goodbye Porkpie Hat

20071114_030 記憶は人知れず繋がってゆく。わたしがたぐり寄せずとも。ときに誰かの記憶を呼びながら。あるいは、確かな執着を持って。まだ見ぬ誰かを待ち焦がれるがごとく。いつしか。いつからか。いついつまでも。吉田篤弘著『針がとぶ Goodbye Porkpie Hat』(新潮社)には、そんな思いを抱かせる7つの物語が収録されている。それぞれの物語は、ページに広がる物語の世界を飛び越えて、いい意味合いで共鳴し、新たな物語を紡ぎ出している。はじまりの一編からから最後の一編まで、ぐるりと一巡りしてみると、もう一度最初の一編を読んでみたくなるほどに。そして、二巡りしてみて気づくのは、誰かと誰かの記憶の繋がりというものなのだった。

 表題作を含め7つの物語の中で、わたしが一番印象に残ったのは、「金曜日の本」という一編だった。ホテルのクロークルーム(外套室というべきか)に勤める男性が主人公の物語だ。ある日彼は、ある映画の登場人物であるジャネット似の女性のコートを預かるのだが、お客はどうやらコートを預けたことなど忘れてしまったらしい。そのまま勤務交代の時間となり、彼はコートのことを気にかけながら、自宅で大好きな読書に耽ることにする。読み始めた本の主人公は、偶然にもジャネット。やはり彼女もコートをどこかに置き忘れている。彼は実在するジャネット似の彼女と、物語の中のジャネットとを混同しながら、刺激的な読書の時間を過ごすのだ。

 彼の読んでいた本は、その名も『運命の女賭博師』なる本だったのだが、まさに彼は読みながら、その運命を翻弄されたと言えるだろう。現実に存在する記憶の中の人と、虚構の中の人(それも、本の中に登場し、自分の中でイメージを創り上げた人物)とを、さまざまに思いめぐらし、その行方を案じていたのだから。そして気づく。差こそあれ、読書というものは皆そういう体験の連続なのだということに。もちろん、それは読書に限ったことではないだろう。映画でも。演劇でも。そうして、自分自身の中に眠る記憶と物語が結びついたとき、そこには新たな疼きが生まれ、きっと物語が出来上がるのだ。人知れず誰かと誰かを繋ぐような物語が。

4104491020針がとぶ Goodbye Porkpie Hat
吉田 篤弘
新潮社 2003-12-19

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コメント

ましろさん☆こんばんは
わたしは「パスパルトゥ」が気に入りました。
あんな雑貨屋さんがいたら楽しいでしょうね。
どこかの遠い国へふらっと旅に出たくなるような気持になる本でした。

投稿: Roko | 2007.11.30 23:24

Rokoさん、コメント&TBありがとうございます。
を、「パスパルトゥ」ー!
これもよかったですよね。わたしも好きです。
なさそうでありそうな…不思議な心地で読んだのを覚えています。
それぞれがそれぞれに、いい味がありましたよね。

投稿: ましろ(Rokoさんへ) | 2007.12.01 17:24

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