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2007.10.24

ヘヴンアイズ

20070811_007 すべてはそう悪いものじゃない。きっと、この場所も。きっと、ここにいるわたしも。そして、今日という日も。たとえ、今目の前に広がる世界が明日には揺らごうとも。そんなことをふいに思い立ったのは、デイヴィッド・アーモンド著『ヘヴンアイズ』(河出書房新社)を読んだからである。孤児院を脱走して、筏で川を下る三人の子どもたちを描いた作品である。子どもたちは真っ黒な泥が広がるブラック・ミドゥンで座礁し、手に水かきのあるヘヴンアイズという女の子に出会う。女の子は、おかしな行動をとる老人と共に、崩れかけた倉庫や工場の並ぶ一画で暮らしていたのだった。子どもたちはそこで過ごし、いくつもの不思議な体験を通して、自分自身や他者を見つめてゆく。

 物語は、子どもたちの心に真摯寄り添いながら、彼らに何らかの気づきを与える展開になっている。もちろん、著者は決してきれい事を並べているわけではない。それは熱すぎず、冷たすぎず、心地よい刺激でわたしにも迫ってきたのだった。そして、すっとわたしの中に入ってきたかと思うと、もぞもぞっとうごめいて耳打ちしたのだ。「大丈夫。大丈夫」と。その、あたたかでやわらかな声に誘われるようにして、わたしの手は物語のページをめくり続けた。これまでのたくさんの悲しみも、たくさんの罪も、何もかもをひっくるめて、すべてを許されたような心地になりながら。そうして気づけば、ほろりとわたしは涙を流していたのだった。

 物語の中でも、語りを努めているエリンが、亡くなった母親と繰り返し対話している場面が印象的である。もうずいぶんと遠い記憶。それも、想像上にしかないかもしれない、淡くも切ない記憶である。そういう記憶をたびたび手繰り寄せることに対して、人は否定的な意見を持つかもしれない。或いは子どもっぽいだとか、感傷的だとか、愚かだとか言うだろうか。けれど、そうすることで救われる思いがあることに、そうすることで日々を繋げることに、この物語を読むと気づいてしまうのだ。そして自分自身にもそういう類の記憶が、いくつも存在していることに気づかされるのだった。明日を迎えるために。明日を生きるために。

4309203841ヘヴン・アイズ
デイヴィッド アーモンド 金原 瑞人
河出書房新社 2003-06-20

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コメント

まあ、デイビッド・アーモンド!!
私、大好きなんですよ!!
デイビッド・アーモンドの描く大人は少し他の児童文学作家と違うなって思います。
私はどれも好きだけど、「火を喰う者たち」とか、「闇の底のシルキー」とか、いや、全部好きですわ。
イギリス人って児童文学、何で他の国の作家より頭一つレベルが上なんですかね。

投稿: 牧場主 | 2007.10.26 18:00

牧場主さん、コメントありがとうございます。
お好きでしたかー!
いいですよね…って、わたしはまだ1冊目なのですが。
これからもっと読んでゆきたいと思っております。
確かにイギリスの作品はレベルが高いかもしれないですね。
言いきれないあたりが、わたしの読書量の少なさデス・・・。
他にもオススメの作品があったら、ぜひ今度教えてくださいませ。

投稿: ましろ(牧場主さんへ) | 2007.10.27 09:05

私は34でましろさんより歳が上ですが、全く、読書量ではましろさんにかなわないですわ・・
ましろさんの読書は幅が広くていらっしゃると思います。
きっと、いろんな作家に柔軟に添えるクレバーな方なんだろうな、と推察します。
私は狭いですね、無理して結構若手の方の話題作を読みますが、自分の感覚の古さを認識しつつあります。
最近は家にあるちくま日本文学全集っていう手頃なサイズの、ふりがながグレーで、字も割と大きく、私のように無知な人間でも分かりやすく脚注? というのでしたっけ、横に言葉の意味が親切に書いてあるシリーズをジャケ買い(!)してあったのを、飾っておくのはもったいないんで、元を取るために読んでいます。
今は折口信夫。
その後、蓼科でしたっけ、安曇野でしたっけ、長野の美術館には行かれましたか?

投稿: 牧場主 | 2007.10.29 12:45

牧場主さん、再びコメントありがとうございます。
クレバーだなんて…そんなそんな、とんでもないです!
単に自分の好みが一貫していないだけですよ。恐縮です。

ちくま日本文学全集!!!いいですよね~。
わたしも数冊だけ所持していますが、ほんとうにうっとりします。
全巻所持したい欲にかられつつ、ぐっとこらえています。
折口信夫とは、またしぶいセレクトですね。素敵です。

はい。安曇野には先日でかけましたよ。
(と言っても9月前半だったかしら…?)
3つの美術館をはしごして、酒井駒子さん、いせひでこさんなどの原画を堪能して参りました。
静かでこじんまりしていてよかったですよ。
とりわけ、安曇野絵本館がオススメです。

投稿: ましろ(牧場主さんへ) | 2007.10.29 17:03

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