« アスピリンの恋 | トップページ | 砂の肖像 »

2007.09.03

ドゥードゥル

20070901_042a じりじりと心が急く。けれども、はやる気持ちが募れば募るほどに、活字は思うように脳内には入ってこず、その蠢きを増すばかりである。視界を行ったり来たりする無数の黒。それに少しばかりの苛立ちと、同時に愛おしさを覚えつつ、清水博子著『ドゥードゥル』(集英社)を読んだ。閉塞感に満ちた語りはどこまでも読み手を追いつめ、息苦しさの中にぽんと放り込む。そして苦痛なくらいに長く、癖のある文体の先にあるのは、ある種の快感である。読み始めたらもはや、本を閉じることなど許されない。いや、許して欲しくない。身勝手なわたしは、その苦痛の先にある快楽に溺れるようにして、一人この作品の世界を耽読してみた。

 表題作「ドゥードゥル」。悪戯書きを意味するタイトルの響きからして、かなり好みの作品である。文学創作科出身の同窓生の結婚式で久しぶりに再開した友人の一人に、身の上話を打ち明けられ、それを自分に代わって小説にして欲しいと頼まれる<わたし>。苦心の末、何枚かの草稿にまとめて送ると、元の文章がわからないほどに添削されたものが返される。半ば逃げるように外国へ行っている間に、同窓生たちに回覧されていたことを知るのだった。これは、書くことについて書いた小説であり、現実と虚構の世界との境界が溶けゆくのが、何とも心地よい。次第に精神的に追いつめられてゆく<わたし>の内省的な語りにも、ひどく魅せられた。たとえ、出口が見えなくとも。

 もうひとつ収録されているのは「空言」。ベランダに干してあった外国に単身赴任中の夫の下着だけが盗まれた…そんな訴えからはじまるこの物語は、そこから既にある執念のようなものを感じさせる。主人公の縫子は集合住宅にて一人の時間を持て余しており、夫に命じられるままローマ字でひたすらメールのやり取りをしている。ここでもやはり、書くことに対する苦悩なるものが描かれており、懸命に紡がれた言葉たちが、現代社会の中でいとも簡単に消えてしまう虚しさをふと考えさせられる。日常に潜むはっとするほどの闇。ほんの少しの歪み。それらが縫子を呑み込んでゆくのを、ただただじっと耐えるようにして読んだ。だが、それもまた妙なくらいに心地よいのだった。

4087744035ドゥードゥル
清水 博子
集英社 1999-04

by G-Tools

にほんブログ村 本ブログ←素敵ブログ、いっぱい。
もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…

|

« アスピリンの恋 | トップページ | 砂の肖像 »

30 清水博子の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/16330021

この記事へのトラックバック一覧です: ドゥードゥル:

« アスピリンの恋 | トップページ | 砂の肖像 »