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2007.09.02

アスピリンの恋

20070901_051 乙女ながら愛や恋に疎いわたしは、その移り気ゆえに、愛は幻想のまま、恋に恋するままがいい…などと日々考えている。かたちない想いに縛られてしまうのならば、いっそ何も叶わずに夢見心地でいたいのだ。これは憶病で勝手気ままな者の発想でしかないが、既にかの弾けるようなときめきなるものがない今、言い訳を繰り返すしかないだろう。今回、生涯恋を終わらせることのできなかったという、太宰治著『アスピリンの恋』(飯塚書店)を手に取り、文豪の真面目な恋愛論にふむふむと頷きつつ、その深みにはまった。これは「駈け込み訴え」「チャンス」「斜陽(部分)」「太田静子宛書簡」を収録した、テキストとイメージが響き合う文学アートブックなる一冊である。

 まずは「駈け込み訴え」。これは聖書をモチーフに、ユダがイエスを裏切るまでを描いた物語である。ユダの内面を通して、その一部始終とイエスへの切なる思いを綴っている。それはまさに恋にも似た感情であり、常に片想い的な満たされない想いは、やがて裏切り行為へと繋がってゆくのである。物語はユダの葛藤、言えなかった言葉たちなど、淡々と語られる聖書の裏に潜む人間の苦しみを顕わにしてゆく。小心者で、どこか憎めなくて、それでいてやはり罪人は罪人で、苦悩の人で。著者がそんなユダに心を寄せたのは、きっと同じ人間としての匂いを感じ取ったからなのだろう。聖書時代も、昭和時代も、いつの時代にも通ずる想いは必ずどこかにあるに違いない。

 続いては「チャンス」。ここで語られる大真面目な恋愛論は、少々ひねくれていて面白い。“恋というものは、チャンスによるものではない”ただそれだけのことを、くどいくらいに真摯に熱く語っているのである。たとえば、声高に恋愛論を語る前に、恋愛に夢中になる前に、恋がしたいとぼやく前に、一読する価値がありそうだ。著者曰く、恋愛とは「好色の念を文化的に新しく言いつくろいしたもの。すなわち、性慾衝動に基づく男女間の激情(省略)」だという。こういう言葉で表現されると、恋愛に疎いわたしはそれだけでくらくらっとしてしまうのであるが、やはりまだ移り気ゆえに、愛は幻想のまま、恋に恋するままがいいなどと思ってしまうのであった。意気地なし。

4752260115アスピリンの恋―太宰治 [iz ART BOOKS] (iz ART BOOKS)
秋馬組★Blaue Blume部
飯塚書店 2007-07-21

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