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2007.08.27

夢みるピーターの七つの冒険

20070825_037 ほろほろと甦る愛おしい記憶。あの時の光景、あの時の感覚、そしてあの時抱いた思い。哀しくて切なくて、それでいて甘酸っぱい。子どもでいることにも、大人になることにも怯えていた、ひどく憶病だった頃のこと。わたしは確かに、あの時成長の真っ只中にいたと思うのだった。ちょうど思春期を目前に控えて、とびきり夢中に日々を過ごして。イアン・マキューアン著、真野泰訳『夢みるピーターの七つの冒険』(中公文庫)は、子どもから大人へと成長を遂げる時期の少年を主人公にした物語である。夢見がちな少年の想像力は逞しく、かつて子どもだったわたしたちの記憶をありありと甦らせ、心地よく子ども時代に浸らせてくれる。

 この物語の主人公・ピーターの視点は、ひどくやわらかい。それを支えているのは、彼の豊かな空想力・想像力というものである。夢見がちな少年は、ことある事にその世界にどっぷりと浸り、なにげない日々をより楽しいものへと変える力を持っているのだった。妹の人形たちにいじめられてしまったり、飼っている長老猫と体を入れ替えたり、消えるクリームで家族を消してしまったり、泥棒をつかまえ損ねてしまったり、赤ん坊と入れ替わってしまったり、未来の自分になってみたり…。そして、世界が自分の夢にすぎないのだとしたら、世界で起こるすべてのことは、自分が引きおこしているのではないか…という壮大な想像までしてしまうのだ。

 その中でもとりわけ印象的なのは、ピーターが未来の自分になる最後の章である。ここでのピーターの視点は、大人の世界と子どもの世界両方にわたっており、その狭間で揺れる微妙な心の変化をつぶさに伝えてくれている。子どもから見た大人の姿というもの。大人から見た子どもの姿というもの。そのどちらにも属さないでいる、微妙な存在の自分自身をも。確かに。鮮明に。そして、大人の年齢になった今だからこそわかる、楽しさみたいなものをとびきり愛おしくも思わせてくれる展開なのだ。そうして、いつからか、いつのまにか大人になってしまった自分自身を大切にしたい気持ちが、不思議とすくっとわいてくるのを感じたのだった。

≪イアン・マキューアンの本に関する過去記事≫
 『アムステルダム』(2007-02-15)
 『セメント・ガーデン』(2007-07-02)

4122046017夢みるピーターの七つの冒険 (中公文庫)
Ian McEwan 真野 泰
中央公論新社 2005-10

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