« うろんな客 | トップページ | アスピリンの恋 »

2007.08.30

ルリユールおじさん

20070526_009 ものつくるひとの手。そのまなざし。その姿勢。その愛情…そのすべてにほろりときた。“RELIEUR”ルリユール(製本)という、日本では聞き慣れないヨーロッパで発展した職業を描いた、いせひでこ作『ルリユールおじさん』(理論社)には、ものつくるひとの精神が溢れている。いかなる商業的な本も売らない。もちろん、買わない。特別な一冊のためだけに、60もの製本工程を手仕事でやる。そして、時を経てもなお、書物に宿ったいのちをよみがえらせようとするのだ。何度でも、何度でも。繰り返し、繰り返し。書物という文化を未来へつなげるために。わたしたち一人一人が手にした書物をとびきりの一冊へと変えるために。その手はまるで、魔法の手だ。

 淡く霞みがかった風景の中、一人の少女がバラバラになった植物図鑑を抱えてパリの街をひた走る。「こわれた本はどこへもっていけばいいの?」。木々からはもうすっかり葉が落ちて、外気の冷たさを思わせる蒼い翳りが映っている。そんな中、少女はルリユールのことを教えてもらう。「ルリユールって、本のおいしゃさんみたいな人のこと?」。そうやって、やっとの思いでたどりついたものの、少女はなかなかルリユールの店に入ることができない。大きな街に小さな少女がぽつりといる…そんな光景は、少女の不安と高ぶった気持ちを顕わにしてしまう。少女にとって、その植物図鑑がどれほど大切なものであるのかも。きっと、少女は本を心から愛していたのだろう。

 物語は、ルリユールおじさんと少女と、その両方の視点から進んでゆく。慣れた手つきで本を次々と製本してゆくルリユールおじさんと、興味深げに様々な質問を投げかける少女。二人は、書物を愛するということで固く結ばれ、その絆を深めてゆく。とりわけ、おじさんがやはりルリユールだった父親の教えを思い返すところが印象的である。作者の淡い色づかいは、ここでぐっと懐かしい雰囲気になる。愛おしい記憶というのは、こんなにもあたたかでやさしいものなのだな、と。同時にほんのりと切なくて、もどかしくて。きっと、少女にとってルリユールおじさんとの出会いの記憶も、いつしかこんなふうになるのだろう。そう思うときゅっと胸が高ぶるのだった。

 実は先日、安曇野にある絵本美術館&コテージ「森のおうち」にて、作者の原画展を観てきたばかりである。この『ルリユールおじさん』の原画を中心とした展示で、その筆づかいと色づかいに圧倒されてきたわたしだ。ルリユールおじさんの繊細さとほんのり漂う孤独な部分、そして人と人との絆、過去と未来をむすぶ力のようなもの、喪失と再生などなど、様々なことを感じ取れた気がする。また、作者の色としてキーとなるブルーの使い方も、ひときわ心に残った。絵本にはおさまりきらないエネルギーを間近にして、ひどく心揺さぶられる思いだった。わたしにとっての特別な夏が、過ぎ去ろうとしている…

4652040504ルリユールおじさん
いせ ひでこ
理論社 2006-09

by G-Tools

にほんブログ村 本ブログ←素敵ブログ、いっぱい。
もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…

|

« うろんな客 | トップページ | アスピリンの恋 »

69 アート・絵本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

初めまして。
猫の写真、癒されますね。
僕も、(って、作家を志望されているんですよね?)小説家なんですけど、(ただし作品がまだ書籍化されていないだけで)なかなか。読むか、書くかで悶悶とした日々を送っております。
現在は、大作(笑。いやいやいたってまじめに)の推敲に骨の髄までずずずいっと、といったところ。ともかく、書くって大変ですね。
街の小さな図書館に行き、書棚の間を限りなく往復しても、何を読もうか・・・・・悶悶と手にとり、開き、己の感覚に問うては戻し、の繰り返し。何かの指標になるであろう、このようなブログはありがたいことよなあ、と感じています。
猫は、息子のように可愛がっていたやつに逝かれ、いわゆるペットロスというやつでしょうか、未だに完全に立ち直れていません。
ところで、ハインラインの「夏への扉」は読みましたか?
では、ブログ、また、拝見させていただきます。

投稿: ショウ | 2007.09.01 09:52

ショウさん、はじめまして。
コメントどうもありがとうございます。
小説家の方なのですか!ぜひ書籍化されましたら、教えていただけませんか?
とても楽しみにしております。
わたしは短編小説しか書いたことがないのですが、
一作完成するまでには、とても様々な工程があって大変ですよね。
大作なら、その苦労は一際神経をすり減らすのではないでしょうか。
どうかどうか、無事に書き上げることができますように。
ひそやかながら、応援させてください。

ところで「夏への扉」ですが、実は何度も挫折している作品だったりします。
いろんな方にオススメされてきたのですが、なかなか思うように読めません。
また心に余裕があるときにでも、挑戦してみようと思います。
今後もどうぞよろしくお願い致します!

投稿: ましろ(ショウさんへ) | 2007.09.01 17:48

 「ルリユールおじさん」読み終えました。紹介していただきありがとうございました、と言いたいくらいによかったです。
 こんなふうに、本のことが大好きで、本のことを愛していて、そして大切にしていて、このお話いいなぁ、と何故かホッとする読書時間でした。

投稿: ペンギン店長 | 2007.10.01 16:49

ペンギン店長さん、コメントありがとうございます。
「ルリユールおじさん」、読まれたのですね!
こんなふうに記事にした作品が読まれると、感慨深いものがあります。
こちらこそ感想を聞かせてくださってありがとう。嬉しいです。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: ましろ(ペンギン店長さんへ) | 2007.10.05 17:39

こんばんは。
TBさせていただきました。

>作者の色としてキーとなるブルーの使い方も、ひときわ心に残った。
いせひでこさんは、何かこの色にこだわりがあるのでしょうか?
他の作品もブルーが主に使われているのですか?
青色ってきれいなんだな、とその美しさを堪能できた絵本でした。

投稿: ぐら | 2007.10.17 21:59

ぐらさん、コメントありがとうございます。
TBはなんらかの不具合で反映されなかったようです。
すみません。こちらからもやってみますね!

青に対して、いせひでこさんがどんなこだわりを持っているのか、
わたしはエッセイを読んでいないのでわからないのですが、
いせさんの青は「いせブルー」と呼ばれているそうです。
これまでの作品をざっとみた感じも、青い絵がとても多い気がします。

投稿: ましろ(ぐらさんへ) | 2007.10.18 06:16

ましろさん、こんにちは。
TBありがとうございます!
原画展に行かれただなんて、やっぱり羨ましいです~。
あの青、「いせブルー」と呼ばれているんですか。
やっぱり綺麗ですものねえ。(ほおぉっ)
今度エッセイも読んでみようと思ってるんですよ。
その辺りの話も読めるのかな? 楽しみです♪

本屋には沢山植物図鑑があるけど、今持ってるこの本を直して欲しい、
という気持ちがすごく伝わってきますよね。
おじさんがページの端を切りそろえた時の表情なんかも
見てたらこちらまでドキドキしてしまいました。
私もあんな風におじさんの作業を間近で見ていたいな…
あ、でもできるこのなら、おじさんみたいな
魔法の手を今からでも持ちたくなっちゃいます。

投稿: 四季 | 2007.12.05 17:55

四季さん、コメント&TBありがとうございます!
原画展は本当に本当に素晴らしかったです~。
いくつかのギャラリーをはしごして、たまたま立ち寄ったところ、
観ることができたんですよ。
だから少しばかり運命的な感じがしました。

この作品の少女の切実なる思い、いいですよね。
大事に大事に本を抱えているところが、いじらしいです。
そして、職人の為せるワザには、思わず目を奪われちゃいますよね。
まさに魔法ですよね!
わたしもおじさんの作業を間近で見てみたい気がします。

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2007.12.06 12:28

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/16286314

この記事へのトラックバック一覧です: ルリユールおじさん:

» ルリユール [キーワード流行ブログ]
ルリユールおじさんという絵本が人気のようです。ルリユール(RELIEUR)とは、本の修理をする職人さんのことだそうで、ルリユールおじさんという絵本に登場するソフィーという少女が自分の持っている植物図鑑がこわれてしまい、ルリユールおじさんに治してもらうとい...... [続きを読む]

受信: 2007.09.30 10:07

» 「ルリユールおじさん」「絵描き」いせひでこ [Ciel Bleu]
  [amazon] [amazon] 何度も読みすぎてばらばらになってしまった植物図鑑を直してくれるというルリユールおじさんを探す女の子の物語「ルリユールおじ... [続きを読む]

受信: 2007.12.05 17:31

« うろんな客 | トップページ | アスピリンの恋 »