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2007.08.13

嵐の季節に―思春期病棟の十六歳

20070624_006 何もかもがあっけなく消えゆく。人も、動物も、向かいの家も。そうしていよいよ深まる死への不安に怯えながら、少女は一人、押し潰されそうになってゆく。まるでいくつもの自分に引き裂かれたみたいに。彼女の複雑に揺れ動く心は、どうにも震えを止めることができない。ヤーナ・フライ著、オスターグレン晴子訳『嵐の季節に―思春期病棟の十六歳』(徳間書店)は、死の不安に取り憑かれて自殺を図った少女ノラが、思春期病棟への入院を介して出会った医師や患者たちとのふれあいによって、徐々に立ち直ってゆく物語である。繊細な少女の心の襞を、綿密な取材に基づいて描いたこの物語は、穏やかな感動を呼ぶ仕上がりになっている。

 16歳のノラ。彼女の身近には、いつも死があった。彼女が生まれる前に亡くなってしまった姉の存在、飼っていたモルモットや犬の死、アメリカの伯母の死、まだ若かった叔父の死などなど、周囲で続いてゆくいくつもの死によって、不安感はいよいよ増してゆく。そして、慕っていた教師にまでも死は近づこうとしていた。そんな時、父親の不倫をめぐって言い争う両親に気づいたノラは、とうとう耐えきれなくなってしまうのだ。ひたすら押し込めていた、ノラの感情の行方。その向かう先にあるもの。物語は、彼女の変化をつぶさに描き出してゆく。そして、彼女のように思い悩む若者たちの姿や、心の病を抱える人々の姿、社会的問題などを浮き彫りにしてゆくのだった。

 この物語を読んでまず思うことは、心の病というものに対する専門的な治療の大切さである。ノラの場合がそうであったように、多くの場合、命に関わる危険な出来事があってから、はじめて専門的な治療がなされるという、悲しい現実があるらしい。そして、心の問題が体の変調として現れた時ですら、さまざまな検査で“異常なし”と診断されてしまうのである。なんとも皮肉な話である。こういう話を聞く度に思うのは、精神科医療というものの敷居がもっと低くあったなら…ということだ。その根っこには、わたしたち自身の精神科に対する意識の問題が挙げることができる。もっとその門戸が開かれるために。もっと早期治療が行われるために。何よりも、わたしたち自身のために。

4198622604嵐の季節に―思春期病棟の十六歳
Jana Frey オスターグレン 晴子
徳間書店 2006-11

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