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2007.08.23

ビロードのうさぎ

20070820_033 本物になること。それは、心から愛されることで叶う夢。子ども部屋のおもちゃたちは皆、男の子が自分を遊び相手に選んでくれる日を待ち望んでいるのだ。いつしか本物になるために。子ども部屋の住人の中で最もかしこいウマはいう、「ほんものというのはね、ながいあいだに 子どもの ほんとうの ともだちになった おもちゃが なるものなのだ。ただ あそぶだけではなく、こころから たいせつに だいじにおもわれた おもちゃは ほんとうのものになる。たとえ そのころには ふるくなって ボロボロになっていたとしてもね。おまえさんだって そうなるかも しれないよ。子どもべやには ときどき まほうが おこる ものなのだ」と。

 こんなふうにして始まる、ぬいぐるみのうさぎの物語は、1922年に初版が刊行されて以来、多くのこどもたちを魅了し続けてきた。マージェリィ・W・ビアンコ原作、酒井駒子絵・抄訳『ビロードのうさぎ』(ブロンズ新社)は、センチメンタルな古典名作を新たに甦らせ、ここにこうして佇んでいるのである。やわらかく滑らかな文章は、語りかけるように綴られており、読み手の心にすっと染み込んでくる。また、美しい絵は、物語にあらたな息吹をもたらし、ただただうっとりするほどに愛らしく、うさぎの存在感を際立たせている。そして、黒色によって引き締められた場面の一つ一つが、神秘的にもリアルにも見えるのが興味深いところである。

 描かれる「本物」になるまでの過程は、決して平坦なものではない。ときとして子どもは残酷であり、それに輪をかけたように大人はもっと残酷であるから。たかが、ぬいぐるみ。そんなふうに思って手放してきたいくつものおもちゃを思うとき、この物語はひどく胸を刺すものへと変わってゆく。大切に、大事にしなかった多くのもの。きっとそれは、ぬいぐるみに留まらないはずだ。書き損じた紙一枚にしたって、朽ちた鉛筆一本にしたって、一度読んだきりになっている本にしたって…同じことではないだろうか。わたしは、そういうありとあらゆるものの扱い方を省みて愕然とした。このままではいけない。絵本を片手に、危機感を募らせたのだった。

4893094084ビロードのうさぎ
酒井 駒子
ブロンズ新社 2007-04

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