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2007.08.15

ちひろの花ことば―文庫ギャラリー

20070811_003 小さな頃から、赤いものが苦手だった。ランドセルの赤、筆箱の赤、スカートの赤、靴の赤…身の回りに溢れる女の子の色が、どうしても好きになれなかった。どの赤も目が眩むほどに鮮やかで、同時にあまりにも仰々しい色のように感じられたから。けれど、1つだけ例外があった。絵画の中の赤である。とりわけ、いわさきちひろの水彩の赤は、心の中にすっと入ってきたのだった。そして、ひどく懐かしくて愛おしい、忘れられない色に思えたのだった。絵のタイトルは「シクラメンの花の中の子どもたち」「ひなげしと子ども」花の精」などである。やわらかに迫りくるのは、たくさんの悲しみや孤独、痛み。無言のうちに語られる多くのことにくらくらした。

 いわさきちひろ絵本美術館編『ちひろの花ことば』(講談社文庫)。文庫ギャラリーシリーズのこの1冊には、いわさきちひろが愛してやまなかった花のある情景がたっぷりつまっている。ちひろの花のある暮らしや、その水彩の色や構図などを手がかりに、花に託したメッセージを読み取ってゆく構成となっている。先に挙げた「シクラメンの花の中の子どもたち」に代表されるように、ちひろは美しい花々やまっすぐな瞳の子どもたちを描き続けることによって、強い反戦の気持ちを表現した。直接的に悲惨な絵を突きつけるのではなくて。平和なもの、豊かなもの、美しいもの、可愛いものなどなど、それらがいかに儚いものであるかを、伝えるかのように。

 その「シクラメンの花の中の子どもたち」は、絵本『戦火のなかの子どもたち』の冒頭の絵である。赤いシクラメンの花びらの中に、子どもたちの顔があちらこちらに浮かび上がる。シクラメンの赤は、複雑に滲んだ色合いによって、遠い日の記憶や戦火の激しさ、深い悲しみや痛みなどを感じさせ、胸に迫ってくる。花の中の子どもたちの透き通るようなつぶらな瞳は、余計に悲劇を伝えてくるようでもある。そうして、わたしがかつて苦手だった赤というものの概念を覆すように、あたたかで、やわらかで、すべてをまるごと包み込むような優しさをも感じさせるのだった。いわさきちひろの絵は雄弁に語る。静けさの中に、母性と切実さを秘めながら。

4061856332ちひろの花ことば―文庫ギャラリー
いわさきちひろ絵本美術館
講談社 1994-02

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コメント

今日 わたしも活字はあんまり読みたくないなぁ・・・と
『ちひろ・子どもの情景』をぱらぱらめくっていました。
で『ザ・ウイスキーキャット』を手に取りましたが・・・(笑)
ちひろ、安曇野に美術館ありますね。
酒井駒子さんも安曇野で原画展、9月は森雅之さんの原画展も安曇野で開催されるんですって。
安曇野、行きたいなぁ。

投稿: nadja | 2007.08.15 17:31

nadjaさん、コメントありがとうございます。
またもや見事にシンクロしてますねー!!!
この文庫ギャラリーシリーズ。かなり重宝してます。
安曇野は美術館が多いから大好きなところなので、
また近々出かけたいと思ってるんですよ。
酒井駒子さんの原画展は、もう行くっきゃないって感じデス。
ナマで観たら、もう感動しまくってしまうんだろうなぁ・・・★

投稿: ましろ(nadjaさんへ) | 2007.08.15 21:05

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