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2007.08.17

いつか愛になるなら

20070526_45036 救いなどいらない…そうひとりごちてみる。捕らえられ、囚われる。そうやって、恋とも愛とも呼べない関係にすがりついたまま、繰り返されるいくつかの性愛の果てに、あるかもしれない可能性を思ってみるのだ。でも、やっぱり救われない。ただあるのは、不毛なまでの繰り返し。だから呟いてみる。救いなどいらない、救いなどいるものか、と。前川麻子著『いつか愛になるなら』(角川書店)を読みながら、わたしはずっとそんなことを思っていた。満たされることのない愛と、次第に緊迫してゆく葛藤とに圧倒されながら。いつまでもぢんぢんと疼く、強い痛みを抱えながら。そのどこまでも深く根ざした、呪縛のような人間関係に怯えながら。

 自分の居場所を探しあぐね、美大講師・立川の助手となった冬子。彼女は、やがて立川と恋人とも愛人とも呼べぬ中途半端な関係に陥った上に、立川の事務所に出入りする男たちと関係を持つ。ぎこちない奇妙な緊張感を心地よく感じるのも束の間、立川の妊娠中の妻・翠の手伝いをすることになってしまう冬子。そして、立川の家に囚われるように、その呪縛から逃れられなくなってしまうのだった…。物語は冬子の心の微妙な揺れを鮮明に描き、その闇の部分に浸らせるように展開してゆく。まるで、この世界にはひとつきりも救いなどなかったものとして。その悲しみが、その虚しさが、その不甲斐なさなどが、当然のものであるかのように。

 そんな救われない物語であるものの、著者の文体が軽やかであるせいか、するすると最後まで読めてしまう。むしろ、救いなど無意味であるかのように錯覚してしまうほどだ。これは、潔いまでの救いのなさと言うべきだろうか。唯一の光は、タイトルに込められた祈りのような言葉のみである。“いつか愛になるなら”。まさに、冬子の心の奥底から発せられたような願いであると思える。そして気づく。とことん救われない生き方の中でも、彼女は救いを諦めてはいなかったのだと。過去においても、現在においても、もちろん、これから先においても。救いなどいらない…そう簡単に呟く自分自身に恥じ入りながら、この物語の深みにはまり込んだわたしだ。

4048736787いつか愛になるなら
前川 麻子
角川書店 2006-03

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