年をとったワニの話―ショヴォー氏とルノー君のお話集1
ときどき毒に満ちた物語が読みたくなる。例えば、苦味のあるユーモアや機知に富んだ物語だとか、基本的なスタンスがナンセンスである物語だとか。もちろん、結末はハッピーエンドじゃなくて、悲劇とも残酷とも取れるようなもの。皮肉めいた部分があったりしてもいい。レオポルド・ショヴォー作、出口裕弘訳『年をとったワニの話―ショヴォー氏とルノー君のお話集1』(福音館書店)は、まさにそんな毒に満ちた物語の代表と言っていい1冊である。奇想あふれる作品の数々は、どれもショヴォー氏が息子のルノー君に語りかける形式で進み、気まぐれにも穏やかに物語は盛り上がりを見せてゆく。これは、表題作の他、全4編を収録しているシリーズ第1弾である。
まずは「ノコギリザメとトンカチザメの話」。残酷なまでに悪さばかりするサメたちの、悲劇的末路を描いているこの物語は、もちろんただ悪が滅びるだけに終わらない。物語の余韻は、悪以上に残酷な者の姿を顕わにしているのである。次の「メンドリとアヒルの話」は、市場へ連れて行かれようとしているメンドリとアヒルの脱出劇である。やがて、コウノトリと出会うことで、その物語はさらなる残酷物語へと発展してゆく。表題作「年をとったワニの話」は、年をとってリュウマチになったワニが、仲間を共食いしたことから始まる、何とも不気味な後味を残す物語である。そして、最後の「おとなしいカメの話」だけが、唯一のハッピーエンドで締めくくられる。
物語は、どれもルノー君の言葉がスパイスとなっている。お話し語りに対して、いい加減になっているショヴォー氏に向かって言うのだ。“パパのお話って、ばかみたいなときがいちばんおもしろいんだ”と。大人としたら、ここで内心は“やれやれ。子どもというのはなかなか侮れないものだな…”なんて思ってしまうのが普通だろうか。けれど、ショヴォー氏の場合は、まるでそれが褒め言葉であるかのように、嬉々として語りを続けるのである。そして、そんな父あって、子あり。ルノー君は、まるで物語に含まれた毒が、さもおいしい美味なものであるかのように面白がる。奇想溢れる物語の数々は、そうしてさらなる深みを持ち始め、そのきらめきを増すのだった。
![]() | 年をとったワニの話―ショヴォー氏とルノー君のお話集〈1〉 (福音館文庫) L´eopold Chauveau 出口 裕弘 福音館書店 2002-11 by G-Tools |
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