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2007.08.07

ふじこさん

20070807_047 さっと光が射し込んで、幼い頃の記憶が思い出したように煌めき出す。あの頃のわたし。あの頃のあの人。色褪せないまま脳内に刻まれたそれは、ときどきそうしてわたしの背をとんと押す。あの頃と今とが、ちゃんと繋がっていることを感じさせるように。あの頃の出来事が、今のわたしを救ったのだと忘れないために。大島真寿美著『ふじこさん』(講談社)は、そんな煌めく記憶をたどる物語である。あるひとつの出会いは、幼い心に希望を吹き込み、この世界にはまだ見ぬ素敵なことがたくさんあることを伝えてくれる。世の中まだまだ捨てたものじゃないと。そして、大人の世界もなかなか悪いものじゃないと。それはまさに、運命の出会いだったのである。

 小学生のリサは、離婚寸前の両親の板挟みになって、ひどく窮屈な日々を送っていた。生きることをやめたくなるほどに。死に場所を探すほどに。そんな時、父親の恋人だという一人の女性、ふじこさんに出会う。彼女は、リサ曰く、これまでに見たこともないようなヘンな大人で、ちょっと乱暴でキレイで、あっけらかんとした人物だった。父の家で彼女に会うたびに、次第に惹かれ、懐いてゆくリサ。そのうち、父よりも母よりも、誰よりも大切な存在になってゆく。だがやがて、別れがやってくる。彼女は彼女だけの宝物を見つけ、旅立つと言うのだ。そして、同時にリサにもリサだけの宝物を見つける日が来るのだと、そっと教えてくれるのだった。

 人との出会い。それは、いろいろなことをもたらしてくれる。もちろん、リサが出会ったふじこさんのように、いい人ばかりとは限らないが、誰にでも人生の転機となるような出会いが、きっとあるように思うのだ。もちろん、出会うのは人ばかりじゃない。いつ何時、何が起こるのかはわからないのだ。だからこそ、先の見えない人生というやつに、わたしたちは一喜一憂するのだろうと思う。些細なことにくよくよして泣いたり怒ったりしながら、ささやかなことに嬉しがったり喜んだりして。そうしていくつもの年月を重ねて、いつしか誰もが自分だけの大切なものを見つけてゆくのだろう。わたしも、わたしだけの宝物を。あなたも、あなただけの宝物を。

 また、他に「夕暮れカメラ」と「春の手品師」を収録している。いずれも人との出会いがキーワードになった作品である。「夕暮れカメラ」では学校をサボって写真を撮る少女と、自分の満足のゆく遺影をとり続けるおばあさんとの出会いが、「春の手品師」では壊れかけた家族の待つ家に帰りたくない少女と、奇妙な存在感を放つ手品師との出会いが描かれている。とりわけ、「春の手品師」での夢と現実とが入り混じった世界は、どことなくあの世とこの世の境界を描いているようで、読んでいてはらはらさせられっぱなしだった。10代の頃に思い悩んだ日々を思い出しながら、ふらふらと物語の迷路にはまりこむようにして、浸ってみるのに最適な作品だと思う。

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大島 真寿美
講談社 2007-06-21

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