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2007.08.20

夜の鳥

20070820_058 季節の足音と共に、少年の心にそっと歩み寄るもの。不安。そして、哀しみの影。やがてそれらは、少年の抱いた幻想を現実のものへと変えるほど、大きく、大きくなってゆく。ゆっくりと。ひそやかに。でも、確実に。そうして立ちこめた不安は、さらなる不安を呼び、哀しみの色を濃くさせるのだ。どこまでも深く、深く根をおろすように。世界の果てにある光など、もはや闇にまぎれてほんの少しだって見えやしないのだ。トールモー・ハウゲン著、山口卓文訳『夜の鳥』(河出書房新社)に始終漂うそんな危うげな雰囲気に、はっと呑み込まれた。無駄を削ぎ落とした文章は、読み手の想像を掻き立て、さらなる物語の深みに浸らせてくれる。

 主人公のヨアキムは、都会のアパートで両親と暮らしている。精神を病んだ父親は、さびしさから逃れようと、ふらっとどこかへ行ってしまうこと、しばしば。そんな中、ヨアキムの不安は次第に大きくなってゆく。“夜の鳥”の幻想として。この夜の鳥は、ヨアキムの部屋の洋服だんすの中に住んでいて、しっかり鍵をかけておかなければ、その大きな翼を押し広げてヨアキムの世界をすっかり闇に覆ってしまうのだ。この物語に始終漂う不安の影。それは、ヨアキムの両親の不安に違いなく、子どもはそれを否が応でも感じ取ってしまうものである。多感であるがゆえに。敏感に。著者はそのことを、現実世界だけにとどまらせずに読み手に伝えてくる。

 また、この物語を語る上で見逃せないのは、ヨアキムを取り巻く子どもたちである。哀しいトーンを貫く物語の中で、生き生きとした子どもたちは、ほんのりとあたたかな救いのような存在である。そこには、日々誰かと誰かが喧嘩し、その関わり合いにびくびくし、ときどき過ちを犯しながら、確かな成長を遂げる姿があるのだ。子どもたちのユーモア溢れる語り口は、ふっと一瞬ヨアキムの心を解放してゆくようでもある。季節の足音と共に、そっと歩み寄るもの。哀しみや不安。けれど、もちろんそれだけじゃない。ヨアキムの中に染み入るように入り込んださまざまな思いは、きっとどこかへ向かうはず。物語は、そんな余韻を残してゆくのだった。

4309203817夜の鳥
山口 卓文
河出書房新社 2003-06-21

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コメント

トールモー・ハウゲン
『月の石』を持っています。
(実は、 トンマーゾ・ランドルフィの『月ノ石』と間違って買ってしまったのですが・・・苦笑)
ハウゲンの作品は、ところどころシリアスな
”ぎゅっ”となる部分があって、そこがまたよいですね。

『夜の鳥』は、絵本作家ワールドで途中まで読んできました。
夏休みということもあって、結構混んでいて最後まで読んでこれなかったので読みたいと思っていたところです。
ましろさんのレビューを読んで、ますます・・・
読まなくちゃ読まなくちゃ♪

投稿: nadja | 2007.08.21 08:09

nadjaさん、コメントありがとうございます!
『月の石』と『月ノ石』。紛らわしいですよね(笑)
わたし、翻訳違いなのかしら…と、すっかり混同しておりました。。。
『月ノ石』は途中で挫折した作品だったりするので、
『夜の鳥』もやっぱり最後まで読めないかも…なんて心配してみたりして。

絵本作家ワールド。混んでたのですね。
この『夜の鳥』の表紙の原画もあったのでしょうか?
いいなぁ・・・今は、本を眺めてがまんがまん…デス。

投稿: ましろ(nadjaさんへ) | 2007.08.21 14:02

ようやく、2冊通して読めました。
でも、またしてもかなり主観的な記事になってしまいました(苦笑)
トラックバックさせていただきましたので、よろしくお願いします。

投稿: nadja | 2007.08.27 13:20

nadjaさん、コメント&TBありがとうございます!
とうとう読まれたのですね~♪
早速記事を拝見しにお邪魔します。
こちらこそ、今後もよろしくお願いします。

投稿: ましろ(nadjaさんへ) | 2007.08.27 16:05

ましろさん、こんばんは♪
この作品、とても好きです。
ハッとするほどの自然描写の美しさ、ヨアキムを始めとする
子供たちの心の機微が繊細に表現されていて、見事でした。
初めて触れた著者の世界ですが、もっと他の作品も堪能したい、と
思っています。

投稿: リサ | 2007.08.29 20:24

リサさん、コメント&TBありがとうございます!
わたしもこの作品、とても好きです~♪
酒井駒子さんの表紙に惹かれて手に取ったのですが、
児童書として子どもたちだけに読ませるにはもったいないですよね。
わたしももっと著者の世界を耽読してみたいと思っています。
早速『月の石』に挑戦中ですが、二段組みなので進まない。。。
がんばります。

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2007.08.30 16:50

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受信: 2007.08.29 20:16

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