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2007.08.21

ヨアキム 夜の鳥2

20070820_013 危うい中で展開されてきた家族のかたちが、変わろうとしている。パパ、ママ、そしてヨアキム。三人きりだった関係は、次第に新たな家族のかたちを生み出すのだ。あしたのために。これからの三人のために。或いは、それぞれのために。始終つきまとっていた不安の影を、どこかへ追いやるために。トールモー・ハウゲン著、山口卓文訳『ヨアキム 夜の鳥2』は、『夜の鳥』の続編として書かれた作品である。物語は、ヨアキムの父親が精神病院へ入院するところからはじまり、ヨアキムの心を満たしている不安感は前作の時よりも強まっている。いよいよヨアキムは自分の寝室で眠れなくなり、ママのベッドで精神の安定を取り戻すのだった。

 物語の中で、印象的な場面がある。ヨアキムが、自分を小さくなったように感じる場面である。その頃、ヨアキムの周りは秘密に満ちていた。その秘密が大きくなればなるほどに、不安感は募り、ヨアキムはそれらに押し潰されそうになるのだった。そして、ヨアキムはこれまで押し殺していた感情を、一気に父親へとぶちまけるのである。その場面の言葉ひとつひとつが、痛く心に染み入るのは、きっとかつてのわたしも抱いたことのある感情だからに違いない。そして、かつての子ども心が、大人と呼ばれる年齢に達してしまったわたしに、ひどく突き刺さるものだったからに他ならない。著者はどこまでも容赦なく、子どもと大人とを結びつけてゆくのである。

 まだ、ヨアキムは小さな子どもである。だが、子どもは子どもなりにいろいろなことを考えている。両親のこと。友だちのこと。学校のこと。よその家族のこと…。そうして、漂う雰囲気の変化を、違いを敏感にキャッチして、子どもなりに懸命に思い悩んでいるのである。ヨアキムの周りの子どもたちも例外なく皆、それぞれにさまざまな思いを抱えていることからも、それは窺い知れる。そして、その様子から気づく。大人の問題だから、子どもの問題だから…そんな区分など本当は存在しないのだろうと。子どもと大人の境界線が曖昧なのと同じように。きっと著者の描いた物語の視点は、その幅広い視野に支えられ、読み手の心の奥底にまで届くのだろう。

4309203825ヨアキム 夜の鳥2
山口 卓文
河出書房新社 2003-06-21

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コメント

ましろさん~こちらにもコメント♪
大人の立場、子供の立場、しみじみと思わされた作品でした。
季節の移り変わりと共に強かさを身にまとうヨアキムの姿が
眩しくて、やがて訪れる春の陽光を感じました。
しっかりと私の心にもその光は届いたようです。
忘れられない作品になりそうです。

投稿: リサ | 2007.08.29 20:42

リサさん、こちらにもコメント&TBありがとうございます♪
季節の変化と共に描かれるヨアキムの心情が、
とても印象に残る作品でしたよね。
ホント著者の描き方は素晴らしかったです!
完璧な幸福ではないけれど、ほのかなあたたかさが感じられて、
あの全体に立ちこめていた不安感がやわらいだように思っています。
わたしにとっても忘れられない作品になりそうです☆

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2007.08.30 17:03

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ヨアキム 夜の鳥2 トールモー・ハウゲン 山口卓文・訳/河出書房新社 「パパのために、自分の夢をだめにしたくないの」。ママの声は小さかったけど、その言葉はヨアキムの胸を刺した。病院に入院しても、パパの心の病はなかなか快復しない。泣いてばかりのパパ。泣くことを教えて、と言うママ。北欧の厳しく美しい自然の中で紡がれる、おとなと子どもの物語。 どうして大人は子供に何でも秘密にするんだろう。どうして大切なことを話してくれないのだろう。 どうして…。 ヨアキムはただパパとママとヨアキムの3人で一緒に... [続きを読む]

受信: 2007.08.29 20:17

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