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2007.07.30

ラ・ロンド 恋愛小説

20061124_017 恋愛小説の醍醐味とでも云うべきか。くらくらと酔いしれるように浸った世界は、どこまでも出口の見えない迷宮だった。離れてはもつれ、もつれては絡み合い。わたしたちはそこで、愛と芸術に翻弄されながら震えることしかできない…。服部まゆみ著『ラ・ロンド 恋愛小説』(文藝春秋)は、まさに“恋愛小説”と謳うのにふさわしい1冊である。「父のお気に入り」「猫の宇宙」「夜の歩み」の三部からなる物語は、どこか危ういバランスの中に存在し、魅惑的な雰囲気を始終漂わせている。そして、運命の歯車を少しずつ狂わせてゆく登場人物たちの姿は、物語の深みにはまった読み手そのものを、そのまま映したようにも感じられてくる。

 舞台女優の妙子と、彼女に惹かれてゆく大学生の孝の姿が描かれる。悲願の舞台である“あわれ彼女は娼婦”で妙子が裸体を晒したことにより、二人の間に年齢差以上の溝が生じてしまうのである。一方、哲学教授の一家にありながら、売れない画家である克己は、姪にあたる藍と運命的な出会いをし、互いに惹かれ合うようになる。一見関わり合いを持たないように思えた4人の男女は、やがてその運命を奇妙にもつれさせてゆく。それぞれの物語の端々には、愛と芸術に翻弄されてゆく人々の姿と、その犠牲になる人々の姿がある。愛の輪舞とは、こんなにも残酷なものなのか…そんなことを思いつつも、幻惑感溢れる文章にぐいぐいと魅せられてしまう。

 とりわけ、「父のお気に入り」での孝の同級生の姿は、悲劇的で印象深い。物語の中にもう1つの物語があるような、物語そのものが舞台のような、そんな不思議な感覚に陥る。或いは、これこそが出口のない迷宮と呼ぶべき悲劇なのかもしれない。恋愛という、1つのかたちが生みだした犠牲とでもいうべきか。それとも、運命とはときにこんなにも残酷極まりないものなのか。恋愛に限らず、1対1であったはずの関係が、さまざまな人を巻き込みゆくことは、ごくありふれたことながら、ひどく恐ろしいことのように思えてくる。誰かと関わらずにはいられないわたしたちと、この残酷な物語とは、実は知らぬうちにごくごく近しい関係にあったのかもしれない。

4163259503ラ・ロンド―恋愛小説
服部 まゆみ
文藝春秋 2007-05

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