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2007.07.06

この闇と光

20050930_019 本物の闇を、わたしは知らない。光さえも、もしかしたら知らないかもしれない。目を深く閉じれば、或いはどこまでも堕ちれば、闇は確かにある。ぱっと目を開けば、眩しいくらいに光を感じられる。でも、違う。どこかが違う。本物の闇も本物の光も、わたしはまだ知らない気がするのだ。服部まゆみ著『この闇と光』(角川文庫)を読んで、そんなことを思った。この作品には、鮮やかなほどの闇と光とがあるからである。本物の闇、本物の光と感じられるくらいの、正しい闇と正しい光。まっすぐな闇とまっすぐな光。その見事な対比と緻密な仕掛けに、くらくらと目眩を覚えるほどに。そして、わたしが見ているものすべてが疑わしくなる。恐ろしくさえなる。

 物語は、現代とも日本ともかけ離れた雰囲気で始まる。失脚した王である父と共に、森の中の別荘に幽閉された盲目の姫君レイア。彼女の世界のすべては、優しい父と侍女のダフネだけだった。父が語り聞かせてくれる物語の数々や美しい音楽やドレス。盲目ながら満ち足りた日々を過ごしていたレイア。だがある日、レイアがそれまで信じてきた世界が一気に崩れ去ってしまうのである。物語はそこから一変し、読み手が全く想像しなかった展開に引き込んでゆく。まさに、闇と光。いや、どこまでも深い闇と、どこまでも仰々しい光という方が適切かもしれない。それらは、闇も光さえもすべてを内なる孤独と化してしまうくらい、滑稽で美しい堕ち方だろう。

 前半で繰り返される、“美しい”と“きれい”。盲目のレイアのイメージでは、この世界は例えようもないくらいに素晴らしかったはずだ。レイアは盲目にして光を知り得ていたかもしれないと、読み終えてから感じた。闇だと思えていたのが光で、光であると思えていたのが闇ということなのかもしれない。結末を思えば、はじめに光があったからこそのものだと解釈できる。では、本当の光とは、本当の闇とは何なのか。わたしの脳内はぐるぐると謎ばかりが増えてゆく。そして、嗚呼と気づく。この物語は、まさにミステリーだと。謎解きではなく、この物語自体が緻密に計算し尽くされた、ミステリー的幻想なのだと。だからわたしは、いつまでもくらくらと浸る。

4041785049この闇と光 (角川文庫)
服部 まゆみ
角川書店 2001-08

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43 服部まゆみの本」カテゴリの記事

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コメント

”真実”とやらを求めて深い谷を降りていくと
大理石で出来た厳かな大聖堂に辿り着く
正門には安っぽいピンクのネオンの看板が掛かっている
”本館には一切の真実はない”
腹立ち紛れに蹴り上げると
看板はひっくり返る
”本館は常時、真実の大安売り”

そこへフードを深くかぶった老人が
どこからともなく立ち現れる
一人の老人は白いマントに身を包み
立派な顎鬚を携えて凛としており
もう一人の老人は黒いフードを深くかぶっており
赤い眼の怪しげな光が見えるだけだ

わたしは彼等に簡単な自己紹介をしたあと
それぞれの名前を尋ねる
白いマントの老人は
「私は黒魔導師だ」と答え
黒いマントの老人は
「私は白魔導師だ」と答える 


『リア王』のような展開から、不思議な方向へ進んでいく話のみたいですね。

投稿: るる | 2007.07.10 10:50

るるさん、素敵なコメントをありがとうございます!
実はわたし。『リア王』を知らなかったりします。。。
雰囲気や展開が似ているのなら、きっと好みなので、
これは要チェックせねば!ですね。
教えてくださって、ありがとうです。

服部まゆみさんの作品は初読みでしたが、
なかなか骨のある話を書く方のようです。
文庫は入手困難ですが、今後も読んでいきたいと思っております。

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2007.07.21 07:49

ましろさん。こんばんは。
ちょっとだけご無沙汰しておりました。

ココログのメンテナンス中にコメントを入れてしまいました。
その結果見事に消えてます。  (_"_;)。。。シュン

事後になってしまいましたが、Linkをさせて頂きました。

最近結果が早く出ないとイライラするようになってしまい、
本をゆっくり読む事が少なくなりました。
そのせいか文字に飢えてきた時は、ここへ来させて頂いてます。

投稿: 銀河☆彡 | 2007.07.27 00:46

銀河☆彡さん、コメントありがとうございます!
メンテナンス中だったのですね。すっかり忘れていました。
ここのところずっとブログを放置していまして、すみません。

わたしも焦ったりイライラしたりすること、よくありますよ。
そんなときはなかなか、腰を据えて読書なんてできませんよね。
長篇なんてもってのほかです。
だからついつい短い作品にばかり手を伸ばしてしまったりして…。
レビュー待ちのものがたまってゆくばかりの、悪循環。
困ったものです。

それからリンク。どうもありがとうございます。
わたしも銀河☆彡さんのところに、またお邪魔しますね。

投稿: ましろ(銀河☆彡さんへ) | 2007.07.28 17:32

この本面白かったです。
全く先が読めなくて。
こんなに先が読めなかったのは久しぶりでした。

投稿: 牧場主 | 2007.08.02 15:51

牧場主さん、コメントありがとうございます。
この作品、読まれたのですね!
何だかとても嬉しいです。
また何か読まれたら、ぜひ教えてくださいね。

投稿: ましろ(牧場主さんへ) | 2007.08.02 16:50

服部まゆみさんがお亡くなりになられたと新聞で見ました。
ましろさんがレビューしたのを読まなかったら出会わなかっただろうと思います。

投稿: 牧場主 | 2007.08.22 21:19

牧場主さん、コメントありがとうございます。
わたしも先日ニュースで知ったばかりでびっくりしました。
これから少しずつ作品を読んでいこうと思っていただけに、
とても悲しい気持ちになります。
ご冥福をお祈りすると共に、これからも作品を大切に読んでいきたいと思います。

投稿: ましろ(牧場主さんへ) | 2007.08.23 06:32

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