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2007.06.09

花伽藍

20070528_019 雨音と孤独はしっとりとよく馴染む。ひとりきりの時間を貫く痛みに、思う存分浸るのも、そんな雨降りのときがいい。無防備に横たわって、泣けるだけ泣いて気が済んだら、あたたかなもので胃を満たして、甘い痛みに寄り添えばいい。そうして、少しずつ少しずつやわらいでほどけてゆく心は、自由であることの証のようなもの。悲しいかな、ひとり身にとっては。中山可穂著『花伽藍』(新潮文庫)は、そういう孤独をほんのり優しくしてくれる1冊である。あまりにもしめやかで、切ないのにもかかわらず、読後感はさわやかで。人が皆ひとりであることを、恋愛に孤独がつきものであることを、まるごとすべて引き受けてくれるようなところがあるのだった。

 始終切なさが漂うひと夏の恋を描く「鶴」、失恋した女性が一夜にして目覚める「七夕」、さまざまな葛藤を覚えつつ再生してゆく「花伽藍」、過去の別れの余韻をじわりと残す「偽アマント」、老齢になってもひたすらに思い合う2人を描く「燦雨」からなるこの1冊は、いずれも女性の同性同士の恋愛の姿を描いている。どの物語にも共通するのは、主人公たちが皆、精神的な意味合いで自立していることである。あまりにも潔く、あまりにも逞しく。もちろん、端々には弱さや脆さも伺えるのだけれど、やはりどの女性たちも“ひとり”という意識を持っているのだと思わせる。そして、役割に縛られない彼女たちは、どこか晴れ晴れと自由を生きているようにも思えるのだ。

 わたしはとりわけ、「偽アマント」に心惹かれた。因果が巡る、悲しき恋愛の終わりを描くこの作品は、アマントという名の猫がキーとなっている。かつて恋人同士だった人との思い出の猫をめぐっての言い争いは不毛ながら、痛いところを突いてくるのである。彼女と彼女の荷物、そして猫までいなくなった広すぎる部屋で気づくのは、過去と同じ過ちをしている自分自身。それでも猫を探し回る姿は情けなくも、もう前へ進み出している。嗚呼、恋愛とはなんぞや…なんて思わずにはいられない。そうして、こんな問いをぼやいているわたしとは違って、彼女たちは別れの余韻を引きずりつつも潔く、明日を生きるととっくに決めているのだった。ひとり、万歳。

4101205337花伽藍 (新潮文庫)
中山 可穂
新潮社 2004-09

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