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2007.06.25

物語の役割

20070624_008 心の隙間を埋めるように、物語はいつだって、寄り添うようにして吸いついてきた。わたしが手にする物語には限度があったけれど、図書館や書店に行けば本の中には物語の世界が無限に広がっていた。けれど、物語には本という枠組みに縛られないものが、たくさん世の中には溢れている。日常生活すべてが、物語になり得る可能性を秘めているのである。そんな止めどなくわき上がる物語は、或るカタチを抜け出して、わたしの心をあたたかに満たす。ときには、そっと包み込んでくれる。小川洋子著『物語の役割』(ちくまプリマー新書)には、誰もが日々必要とし、作り出している物語を、言葉で表現していくことの喜びを伝えてくれる1冊である。

 この本、「物語の役割」「物語が生まれる現場」「物語とわたし」の3部構成からなっている。物語を創作するにあたっての人との出会いにはじまり、誰もが物語を作り出していることについて語っている。わたしたちは日々何かを記憶するたびに、無意識に現実を物語にして積み重ねてゆく。そして、どうにか現実との折り合いをつけながら生きているそうだ。それに対して、作家はそれを意識的に行っている職業なのだろう。また、著者がこうして作家として活動できるに至るまでの、読書歴や思い出の書物について語っているのもなかなか興味深い。とりわけ短篇作品「まぶた」に収録されている作品に纏わる話は、いくつもの奇跡と偶然とが結びついたように思えてしまう。

 同じ本を読む人。わたしはそれだけで、その人との関係が親密なものに変化する気がしている。同じ本を同じ時期に読み、同じように感じられる相手。或いは、あれこれと趣味が合う相手。そんなに都合のいい相手など、滅多に出会えることなどないと知りつつも、ひそやかに期待し続けているのは、きっとこうしてブログ記事を書くことを日課にしているからだろう。本屋や図書館でばったりと遭遇し、本についての話をする…そんな理想的な記憶を自分の中で都合良く編集して、わたしは心の奥底にしまいこむ。それもまた、わたしだけの物語として、果たしてこの世に存在していたことになるのだろうか。目には見えない秘め事として。わたしだけの。いつか出会える誰かの。

448068753X物語の役割 (ちくまプリマー新書 53)
小川 洋子
筑摩書房 2007-02

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