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2007.06.13

上京十年

20070520_037 ひとつきり。それだけでいいから、芯の通ったゆずれない思いをしかと胸に抱いていたいと思う。と書きつつも、わたしはそれだけの器を持ち合わせてもいなければ、物事に関する筋の通し方も知らないのだけれど。あるのは、わがままと同意の頑なさだけのような気がしている。それは、益田ミリ著『上京十年』(幻冬舎文庫)を読んで痛感したことである。そもそも十年もの間、上京などしていないのだから、当然と言えば当然なのだろうが、自分の経験値の低さや大人としての未熟さ、気の小ささなどなどにため息がこぼれてしまうのだった。もちろん、著者だって人の子。37歳としての等身大の日々を飾り気なしに語ってくれている。やわらかに。かつ、穏やかに。だからこそ身につまされ、自分自身を省みてしまうのかもしれない。

 この「上京十年」。中日新聞の連載を文庫化したもので、日常の中で思うこと、考えたこと、感じたことなどを綴っている文章と、イラストと、川柳を収録している。上京してから、一度も田舎に帰ろうとは思わなかった著者の、“故郷は捨てたのではなく保存した”という句は、なんだか思わずニヤリとさせられつつ、深いなと思わせる。イラストレーターになるために上京した著者の、さまざまな気持や状況の変化、夢への道のりを思うと、重みも感じずにはいられない。そして、ふと老後のことが心配になったり、父親から届くお中元やお歳暮にほろりとなったり、高級料理店でドキドキしたり、習い事がなかなか続かなかったり、たった一言に傷ついてみたり。可笑しいくらいに、人間的なのである。

 わたしが一番うんうんと頷いてしまったのは、「目分量のおふくろの味」というエッセイ。よし、頑張って料理に挑戦するぞ、となっても料理本を眺めるばかりの著者が、母親の味を学ぼうとするのだけれど、レシピなどなくてすべてが目分量だった…という話。わたしの母も大方目分量なものだから、思わずふふっとなってしまった。作るたびに違う味&焼き具合のケーキとか、毎度辛さが違うカレーや麻婆豆腐とか…数えていったらきりがないほど。ただでさえ料理をしないわたしは、いつになったらおふくろの味を学ぼうと思うのだろう。いや、レシピ作りが先か。はて。それにしても、母親とは、すごい生き物だわと感じずにはいられないわたしだった。

4344409701上京十年 (幻冬舎文庫 ま 10-1)
益田 ミリ
幻冬舎 2007-06

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