« ゴットハルト鉄道 | トップページ | マリ&フィフィの虐殺ソングブック »

2007.05.29

アッシュベイビー

20070528_030 愛する人が与えてくれる死。それはある意味、究極の愛なのかもしれない。自ら望んで求めるその行為は、悲しみと憎しみとを超えてしまうほどに幸福感が漂っている。いや、自ら幸福を言い聞かせるようにして、幸せなふりをし続けるのだろうか。虚しい。とにかく虚しい。そして人はやはり孤独、とでも言うべきか。それでもなお、死も生も性もいびつな美しさを放っていると思わずにはいられなかった。金原ひとみ著『アッシュベイビー』(集英社文庫)は、ひたすら愛する人による死を求めるアヤと、その周囲の人々をめぐる物語である。赤ん坊とルームメイト、その知人ら。不毛な繋がりがアヤを苦しませるほどに、物語は痛みを意識させてゆく。

 アヤの視点で描かれる物語は、歪んでいる。いびつな美しさを放ちながら。些細なきっかけからルームメイトになったホクトは、小児性愛者。その知人である村野は、あまりに冷淡で掴み所がない。やがて、アヤは村野に対して強い執着を抱くようになる。その後、ホクトがどこかから赤ん坊を連れ込んだことから、アヤの生活はあらぬ方向へ進んでゆく。欲望の極みとでも言うべきか、アヤは愛する人が与えてくれる死を望み続ける。死。それは、愛のもたらす幸福か。はたまた、存在の消滅か。物語はアヤの思考の中で、ぐらりと大きく揺れてゆく。その揺らぎと独白に混じる、悲しき性というのが、痛々しいほどに鮮明に描かれているところが、ほろりとくる。

 アヤが繰り返す、悲しいほどに即物的な性行為。女の性というものは、複雑ながら犠牲的な気がした。全く相手にされない冷淡な男にもかかわらず、何度でも繰り返す“好きです”。その満たされない思いは、誰かの心に届くわけもなく、鋭いナイフとなって自分自身に戻ってくる。ずずっと肉にめりこむのはあっという間で、やがてそこに傷の裂け目がありありとぎらつく。そして思う。“私は裂け目を持っている”と。ときに疼き出すような、熱の核としての部位を。幾度も押し広げられることに対して、あまりにも純粋だからこそ、物語に始終漂う虚しさが痛い。それでも、結末は唐突に訪れ、なんの救いも渡さずに途切れさせる手法は、深い余韻を読み手に与えてくれる。

4087461572アッシュベイビー (集英社文庫)
金原 ひとみ
集英社 2007-05-18

by G-Tools

にほんブログ村 本ブログ←素敵ブログ、いっぱい。
もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…

|

« ゴットハルト鉄道 | トップページ | マリ&フィフィの虐殺ソングブック »

14 金原ひとみの本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

この本、私も読みました。
知り合いに勧められて。

アヤが言う「積極的な死」、つまり
自傷行為やODをすることでやっと「生きている」と感じることができる人。
そういう人の気持ちがすごくよく分かる物語だと思います。

昔付き合った女性も少しそのケがあったので「ああ、あの時彼女はこういうことで悩んでいたのか」のような感傷にふけったり。。。

でも作品になるかどうか、ギリギリのところだと思うのです。
「何か言いたいこと、伝えたいことがあるわけでもなく、自傷癖のある若い女性の内面をただ羅列しただけ」。
これは否定できない面もあるかと。。。

ただ、太宰治の人間失格だって、「ダメ男のモテ自慢」ぐらいにしか感じない人だっているわけですから、
これがホントにいい作品かどうかは、時代が経たないとわからないんじゃないか。
とも思ってます。

長々すみませんでした。

投稿: gunnnai | 2008.12.05 23:54

gunnnaiさん、コメントありがとうございます。
長いコメント大歓迎ですよ☆

わたしは金原さんの描く世界がわりと好きです。
ギリギリの危ういラインをしっかりわきまえて描いているように感じるんです。
それは、わたしが危うい部分を持ち合わせているからかも知れませんけれど…。

まだまだ若い作家さんですし、好き嫌いは分かれる作品なのかも知れませんが、
一人称小説や純文学の世界をちゃんと読んできたからこそ、
ギリギリのラインを描ける作家さんだとひそやかに思っています。

太宰作品は、評価されるのが遅すぎましたよね。
「人間失格」。学生時代に何度読み返したことか。

確かに時代がめぐってみないことには、
本当にいい作品はわからないですよね。
流行りモノは残らないことが多い。
読み継がれてゆく小説は、次の世代まで残ってゆくのでしょうね。

投稿: ましろ(gunnnaiさんへ) | 2008.12.06 10:33

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/15243493

この記事へのトラックバック一覧です: アッシュベイビー:

« ゴットハルト鉄道 | トップページ | マリ&フィフィの虐殺ソングブック »