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2007.05.13

建てて、いい?

20070414_028 ひとつさがして、ほろり。もひとつさがして、ほろり。居場所を求めるがゆえに、ほろりほろりとくる。それはきっと、わたしもどこかしら自分の居場所を欲しがっているからなのだろう。そんなことを痛感させられた、中島たい子著『建てて、いい?』(講談社)。30代の独身女性が“家を建てる”というシンプルなストーリーの中に、ぎゅっと濃縮された女性ならではの細やかな視点が、実によく効いている作品だ。周囲に振り回されて、複雑に揺れる心は、居場所が欲しいと願っている。けれど、居場所イコール家というものなのかが曖昧なまま、家造りへと突き進んでゆく主人公。一体どんな家ができるのか。読み手側まではらはらしながら読む1冊だ。

 この著者の魅力と言ったら、物語の出だし。この作品では、階段から落ちてしまうところから、はじまる。家を建てることに全く関心のない読者を、一気に巻き込んで確実に引き込んでゆく。そして、30代の独身女性の世間的なイメージをうまくデフォルメして、繊細なタッチで描いてゆくのである。「40までに結婚しよう」という思考が、「家を建てよう」となるまでの主人公の日常、人柄、これまでの日々、すべてを網羅し、親しみを感じさせている。そこへ、ほろりとくるような出来事が散りばめられてもいるから、さらに愛しさが増してくる。そうして、彼女と自分を重ねてしまう自分自身に気づいた頃には、物語にどっぷりはまってしまっているのだ。

 主人公が求めているのは、いわゆる自分の落ち着ける“居場所”。けれど、その心を本当に満たすのはなんだろうか…と考えたときに、このシンプルな物語に深みが感じられるのではないかとわたしは思っている。ひとつさがしても、もうひとつ欲しくて。でも、欲しいと思ったからといって、必ずしも手にすることはできなくて。人の求めるものというのは、なんとももどかしくて、ほんとうに儚く淡い夢のようなものだったりする。“家を建てる”つまりそれは、ほんの通過点に過ぎない。彼女はきっと、家を糧として生きてゆくはず。まさにこれからがはじまりだ、と感じさせる結末は、わたしたちにほのかな希望を与えてくれているような気がする。

4062139383建てて、いい?
中島 たい子
講談社 2007-04-06

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 2007.4.9初版。初出「群像」、表題作「建てて、いい?」は2006年12月... [続きを読む]

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