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2007.05.14

となりの姉妹

20070514_003 季節のにおいをつうんと感じて、くらくらした。ただ、もう、くらくらと。目覚めていた記憶を脳の髄まで押しやって、ほんのりと、でも確かな存在感を持って、解き放たれるそれ。しまった、と思う。やられた、とも思う。なんだか無性に、敗北感ばかりがよぎってゆく。季節は、今もここから動き出そうとしている。此処から彼方まで。長野まゆみ著『となりの姉妹』(講談社)を読み終えて、わたしはもう、くらくらだった。とにかくめっぽう、くらくらと。いつか見た光景と幼い日が、ぐるぐるとめぐるようで、自分というものが揺れた。危ういまでにぐらぐらと揺り動かされた感じだ。いつまでも浸っていたい世界を突然奪われた、幼子のような気分だった。

 物語は、忘れていた記憶と懐かしい場所を頼りに、家々や人々を結ぶ不思議な縁のめぐりあわせを描く。隣に住む姉妹、放浪癖のある8歳違いの兄、近所にある酒屋の奥さんの死などなど、語り手の<わたし>の周囲は、穏やかながらさまざまな出会いと別れが行き来する。とりわけ、酒屋の奥さんの遺したいくつもの謎めいた品々は、人々を巻き込んで静かな余韻をあちらこちらに残してゆく。ため息が洩れてしまうような美しい装丁にぴったりの、なんとも心地よい物語である。惚れ惚れする一冊というのは、まさにこういう本のことを言うのだろうなぁ、なんてことを思いながら、つい表紙を撫でて自ら再びくらくらしてみる至福の時…くらくら…

 そして、登場人物の中で、語り手の<わたし>の兄が、すごくいい味を出している。ある日を境にして、別人のように変わった過去のある人物なのだ。放浪癖があるから、何をしているのかどこにいるのか、見当もつかないような雰囲気なのだけれど、次々と見せてくれる物言いや人柄が、なんとも憎めない。裏と表をわきまえているというか、基本の姿勢がよくできているというか。後半になって、その謎めきのわけが明らかになるのだけれど、ほうほうと思わず頷いてしまう。その兄を冷静な目で見ている<わたし>も、その母親も、もちろん、おっとりした感じの隣の姉も、いい味を出しているけれど、やっぱりこの兄あっての物語なのだろうな、と思うのだった。

4062135426となりの姉妹
長野 まゆみ
講談社 2007-03-23

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